技術情報

ガスクロマトグラフィー(GC)の基礎

Ⅱ章-2-1 キャピラリーカラムの選択方法(初級)

キャピラリーカラムを選択する際のポイントについて説明します。
キャピラリーカラムで分離に影響するファクターとして、「液相の種類」「カラムの長さ」「カラムの内径」「液相の膜厚」以下の4点があげられます。

キャピラリーカラムの構造の画像

これらのファクターが、実際の分析に対してどのような影響を与えるかを順に説明します。


Ⅱ章-2-1-1 液相の種類

当社が製造している一般的なキャピラリーカラムのラインアップは以下のようになります。

※液相の極性はSqualaneの極性を0、OV-275の極性を100としてMcReynolds Constantsの手法に基づき、数値化したものです。

液相の選択方法

様々な種類があり、選択に迷うと思いますので、最初に選ぶべきカラムを3種類ピックアップしました。

極性 液相 種類 分離モード 分析対象化合物
無極性 メチルシリコン ○○-1
(InertCap 1など)
沸点の差 一般分析、炭化水素、
高沸点成分
微極性 フェニルメチル
シリコン
○○-5
(InertCap 5など)
ほぼ沸点の差
(+フェニル基に
 よる若干の保持)
一般分析、フェノール類、
農薬、ハロゲン化合物
強極性 ポリエチレン
グリコール
○○-WAX
(InertCap WAXなど)
極性の差 極性化合物、アルコール、
香料、有機酸、FAME

液相を選択する際、まず最初は分析対象成分の極性に類似した極性のカラム液相を選びます。
たとえば、アルコールや脂肪酸のような極性物質を測定する場合は、WAX系などのカラムを選択します。
極性の高い試料でなければ、無極性カラムか微極性カラムを選択することお薦めします。

  1. 無極性化合物の分析 → 無極性(InertCap 1)、微極性(InertCap 5)
  1. 極性化合物の分析  → 高極性カラム(InertCap Pure-WAX)

(参考)
無極性カラムと微極性カラムの使い分けですが、海外では沸点の差で分離する無極性カラム(InertCap1など)が選ばれることが多いです。
国内の場合ですと、同じような沸点の成分でもフェニル基の保持の差で分離できる微極性カラム(inertCap 5など)が選ばれることが多いです。好みの差ですので、どちらを選んでも問題ありません。


液相のミスマッチ

測定物質とカラムの極性が違う場合、液相に対する溶解力が低くなり、ピーク形状が悪くなることがあります。
また、液相の試料許容量が少なくなるため、サンプル負荷量を増やすことができません。
下記に、脂肪酸を無極性カラムと高極性カラムで測定した例を示します。

飽和脂肪酸(極性化合物)のアプリケーションの画像

無極性カラムでは低級脂肪酸のピーク形状が悪くなりますが、高極性カラムでは改善されていることがわかります。高極性カラムは、液相となじみが良く液相に溶け込んでいる時間が長くなるため、保持が強くなり、溶出時間が遅くなります。


Ⅱ章-2-1-2 カラム長さ

キャピラリーカラムには長さ5m~100mの種類があり、一般的には30m~60mのカラムが多く使われます。

カラムの長さは理論段数と分析時間に影響し、長さが2倍になれば理論段数と分析時間が2倍になります。
ただし分離度は約1.4倍しか向上しないため、思うほど分離が改善しないことがあります。
分離を目的とする場合は長いカラムを、分析時間を短縮したい場合は、短いカラムの使用をお薦めします。
分離が可能な範囲で、なるべく短いカラムを選択して下さい。


Ⅱ章-2-1-3 カラムの内径

キャピラリーカラムの内径は0.1mm~0.53mmの種類があり、一般的には0.25~0.53mmを使用します。カラムの内径は、理論段数、分離度、試料負荷量に影響します。
内径の細いカラムの方が単位長さあたりの理論段数が高いため、分離を重視する場合は、内径の細いカラムを使用します。

サンプル拡散のイメージ

ただし、内径の細いカラムは試料負荷量が少なくなるため、スプリット比を大きくするなど、導入量の調整が必要であり、微量分析では不充分な場合があります。

微量分析においては、内径の太い0.53mmのカラムを使い、スプリット比を小さくすることで改善される可能性があります。また、0.1mm~0.18mmの内径の細いカラムは高分離能であるため、線速度を速くすることができ、高速分析に適しています。


Ⅱ章-2-1-4 液相の膜厚

液相の膜厚は、分析時間と試料負荷量に影響します。
膜厚を厚くすることにより、試料負荷量が大きくなり、より高濃度の試料を測定できます。

上図のクロマトグラムは、分離が改善された一例です。
膜厚1.5µmの場合、プロピレンとプロパン以外の成分はほとんど分離しています。
しかし、膜厚を厚くすることで各試料の保持比は膜厚にほぼ比例して増加し、分析時間は長くなりピークの幅は広くなっています。沸点の高い物質の分離を改善する場合、膜厚を厚くしても、分析時間が長くなるばかりか、ピーク幅が太くなってしまうために分離は改善されません。


Ⅱ章-2-1-5 まとめ

キャピラリーカラム選択のポイント(具体例)

まず最初に、過去の分析例を探します。

   ・各メーカーのアプリケーション集
   ・カタログデータ
   ・文献

目的と同じ分析例が見つかれば、そこに記載されている分析条件で、同様のクロマトグラムが得られるはずです。まったく同様のアプリケーションが入手できない場合でも、目的成分を含むクロマトグラムが入手できれば、カラムや分析条件を絞り込むヒントになります。

下矢印の画像

分析例が見つからない場合には、4つのファクターを考慮に入れてカラムを選択します。

液相
液相の種類を決める場合には、目的成分に化学的性質の近いものを選ぶわけですが、具体的にはInertCap 1(InertCap 5)とInertCap WAXのどちらが適しているかという程度の選択で多くの場合は大丈夫です。

長さ
分析可能な範囲でなるべく短いものを選びますが、30m程度のものをお薦めします。

内径
分離を重視する場合0.25mm、試料を大量に注入する場合0.53mmをお薦めします。

膜厚
分析可能な範囲でなるべく薄いものを選びますが、内径0.25mmのカラムの場合は、0.25µm程度が標準です。


 

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