技術情報

HPLCの上手な使い方

Ⅰ章-3 化学結合型シリカゲルの特性

オクタデシル基結合シリカゲルは、通称ODSとして最も幅広く使用されている充填剤であり、多くのメーカーから種々の製品名で発売されています。その中から分析目的にあった充填剤を選択することは、非常に困難ではありますが分析を成功させるためには必要不可欠な項目でもあります。その充填剤の特性がクロマトグラムに与える影響について、種々の面からまとめてみました。数多くのODSシリカゲルの中から目的にあった充填剤を選択する際の参考にしてください。

Ⅰ章-3-1 母体シリカゲルの種類

形状・・・球状,破砕状

破砕状の充填剤では充填の再現性が得られにくく、圧力変動などにより劣化しやすいので、できるだけ球状充填剤の使用をお薦めします。

粒径・・・3µm,5µm,10µm以上

大きく分けて3µm,5µm,10µm以上があります。右図に各粒径のシリカゲルにおける、線速度(流速/内径)とHETP(長さ/理論段数)の関係を示しました。最大理論段数が得られる流速は粒径によって異なり、粒径が小さい程高理論段数が得られます。流速を速くしても理論段数の低下が少ない3µmは、高速分析が可能なファーストLCとして知られています。

細孔径・表面積

細孔径は60~150Åの一般分析用と大孔径(300Å以上)のタンパク分析用充填剤に大別され、小さい方が低分子化合物の分離に適している傾向があるようです。表面積は、細孔径が小さいほど大きくなります。

オクタデシル基結合量

一般に重量%で表示され、保持時間はオクタデシル基結合量にほぼ比例します。ただし、母体シリカゲルの表面積やサンプルの性質などの因子によっても保持時間が変動するため、オクタデシル基結合量だけで充填剤を選択することはさけてください。

Ⅰ章-3-2 オクタデシル化およびエンドキャッピング方法

一般的なオクタデシル化方法

オクタデシル化の一般的な反応図を以下に示します。シリカゲル表面に存在するシラノールへのシリル化反応がもっとも多く使用されており、反応試薬や反応方法によって結合炭素量・分離特性が異なってきます。しかし、どのような処理を行っても、分子傘の大きなオクタデシル基をシリカゲル表面のすべてのシラノール基に結合するのは不可能なため、オクタデシル化後でもシラノールは残ることになります。

一般的なエンドキャッピング方法

オクタデシル化後に残ったシラノール基をより小さな分子のシリル化剤で処理することをエンドキャッピングと言い、一般的な反応図を以下に示します。このエンドキャッピングの程度により残存シラノール量が異なり、吸着性の強いサンプルのピーク形状に影響が現われます。

Ⅰ章-3-3 シラノールおよび金属による吸着現象

エンドキャッピング後に残存しているシラノールおよびシリカゲルの微量含有金属は、分析結果に種々の影響を与えます。これらによって分離が改善されることもありますが、ほとんどの場合はサンプル吸着という悪影響を与えます。充填剤性能の善し悪しは、残存シラノールおよび含有金属によって決定されるといっても過言ではないと思います。ここでは、残存シラノールおよび残存金属による吸着現象について説明します。 残存シラノールによる吸着現象 オクタデシル基量が同じで、エンドキャッピングの程度が異なる4種の充填剤で窒素化合物の代表であるピリジンの溶出試験を行いました。ここで、1*は不活性度を表すパラメーターで、数値が小さいほど残存シラノールが少ないと言えます。この4種の充填剤においてピリジン以外のピーク形状はほぼ同等ですが、ピリジンピークに関しては残存シラノールの多い(1*の大きい)充填剤ほど吸着して遅れているのがわかります。

含有金属による吸着現象 含有金属の異なる3種の充填剤を用いて、チアミンの分析比較を行いました。これらの充填剤は、オクタデシル化・エンドキャッピングは同じ処理を行っており、シリカゲル純度のみが異なります。同一条件にもかかわらず、充填剤によってチアミンのピーク形状が大きく異なり、金属含有の多い充填剤ほど吸着によるピークのテーリングが見られます。この図より、含有金属も吸着現象の原因となることがわかるため、充填剤としてはできるかぎり含有金属の少ないものを選択してください。

含有金属(ppm)

Zn Fe Mg Ti Al Na
A 19 22 250 160 150 190
B 4 10 97 99 54 56
C 1 2 1 <1 5 5

Ⅰ章-3-4 市販充填剤の吸着比較

現在市販されている充填剤は、残存シラノールや含有金属の量がそれぞれ異なるため、サンプルの吸着にも差が現れてきます。満足のいく分析結果を得るためには、使用している充填剤の性質を把握することが重要です。ここでは、高純度・高エンドキャピングであるInertsil ODS-2と2種の市販充填剤での芳香族酸とアニリンの分析結果比較を紹介します。(その他の比較は、弊社テクニカルノートNo.8をご覧ください。)

芳香族酸とアニリン分析における市販充填剤比較

充填剤Aではアニリンは吸着してしまいますが、芳香族酸はシャープに溶出するのに対し、逆に充填剤Jでは芳香族酸がテーリングして、アニリンはシャープに溶出しています。この結果より、酸性化合物の分析には充填剤A、塩基性化合物の分析には充填剤J、両者の混合物の分析にはInertsil ODS-2が適していると推測できます。このように、同じODSシリカゲルでもその特性が異なるため、過去の分析データやデータ集などを参考に、その充填剤の特性をある程度把握し、それを充分に引き出すことによって上手に分析を行ってください。

1.芳香族酸
0.1%H3PO4 in 50% CH3CN
1.Benzoic acid(0.42%)
2.o-Toluic acid(0.1%)
3.Ethyl benzoic acid(0.1%)

2.アニリン
0.1%H3PO4 in 50% CH3CN
1.Aniline(0.6%)
2.Nitroaniline(0.1%)
3.Dinitroaniline(0.13%)

Ⅰ章-3-5 オクタデシル基結合シリカゲルの耐久性

ODSシリカゲルを使用していて、保持時間が早くなってしまったなどの経験をされた方は少なくないと思います。この原因の1つとして、加水分解によるオクタデシル基の切断が考えられます。とくに酸性溶離液中では加水分解が促進されますので、この現象が顕著に現れます。ここでは、0.1v%TFA水溶液(pH2)への浸漬時間を横軸として、縦軸に保持時間変動率をプロットし、pH2の酸性水溶液中での保持変化を調べ、種々のODSシリカゲルの耐久性を調べました。

オクタデシル基量の影響

オクタデシル基量が多いほど変動が少なく耐久性が高いことがわかります。

残存シラノールの影響

シラノールが少ないほど変動が少なく耐久性が高いことがわかります。

市販充填剤での耐久性比較

種々の市販充填剤で耐久性比較を行いました。Inertsil ODS-2のように600時間後でもほとんど変化のないものから、保持時間が60%程度になってしまう充填剤までありますので、このような溶離液を使用する場合には充填剤の選択を慎重に行ってください。また、溶離液が有機溶媒との混合系ですと加水分解はかなり抑制されます。
Inertsil ODS-2以降、ODS-3,ODS-4をはじめ、より耐久性の強い不活性度と炭素量のバランスが取れたカラムが開発されています。また最新のInertSustain C18では、耐アルカリ性についても向上しさらなる耐久性を実現しました。

Ⅰ章-3-6 その他のアルキン基結合シリカゲル

ODSシリカゲルが、そのデータの豊富さからもっとも広く使われていますが、アルキル基の異なる充填剤を使用した方がより簡単な条件で分析が行える場合もあります。ここでは、アルキル鎖の長さが異なる充填剤およびフェニル基を結合した充填剤の特性を紹介します。ODSシリカゲルでどうしても分析がうまくいかない場合の参考にしてください。

アルキル鎖長の違いによる保持の違い

ODS結合シリカゲルとアルキル鎖長の異なるオクチル基、ブチル基結合シリカゲルの保持時間比較を多環芳香族で行いました。下図より、アルキル鎖長に比例して保持時間が長くなることがわかります。ODSシリカゲルでは保持が長すぎる場合に、アルキル鎖のより短いものを使用すると分析時間の短縮になります。

Conditions

Eluent
:
CH3CN/H2O=55/45
Flow Rate
:
1.0mL/min
Detector
:
UV 254nm
SampleSize
:
2.0µL
Sample
:
1.Urasil
 
 
2.Benzene
 
 
3.Naphthalene
 
 
4.Biphenyl
 
 
5.Anthracene
 
 
6.Fluorancene
 
 
7.Triphenylene

Retention Time of Peak 7

Inertsil C4 :7.4min
Inertsil C8 :15.7min
Inertsil ODS-2 :32.6min

フェニル基結合シリカゲルの保持特性

炭化水素・アルコール・多環芳香族アルキルベンゼンの保持比をフェニル基結合シリカゲルとODSシリカゲルで比較しました。フェニル基のπ電子の効果で2重結合を持つ化合物が選択的に遅れて溶出します。ODSシリカゲルで分離しない場合、このような選択性の高い充填剤に換えると分離が改善される場合があります。