HPLCの上手な使い方
Ⅰ章-1 分析を始める前に
標準試料の分析では、メーカーのカタログや文献を参考にして、いきなり分析を始めても問題はありませんが、実試料においては、前処理などのさまざまな検討が必要となります。ここでは前処理を中心に、分析を始める前に注意しなければいけない点をまとめました。
試料の性質
目的試料が熱・光・化学反応などで、変性を起こす場合はその対処が必要です。
ホモジナイズ
試料と抽出溶媒を均一にする手段としてホモジナイズが用いられます。特に繊維質固体試料の場合には、あらかじめ液体窒素で凍らせて細かく砕いてからホモジナイズするとより効果的です。
除タンパク
一般的には、有機溶媒(エタノール、アセトニトリル等)や酸(メタリン酸、過塩素酸等)をサンプルに加えてタンパク質を沈澱させたり、遠心濾過によって除去します。
遠心分離
サンプル中に沈澱物などが存在している場合には遠心分離によって取り除きます。数回繰り返して行うことにより、回収率を高めることができます。
液-液抽出
抽出溶媒への溶解度の差を利用して、サンプル中の夾雑成分を取り除くときに使用されます。しかしこの操作には、多量の溶媒と熟練が必要なため、ルーチン分析には固相抽出の方が適しているようです。
固相抽出
溶媒消費量が少なく、短時間で行えるため、最も多用されている前処理法です。(詳しくは後述)
誘導体化
検出感度がないサンプルなどに利用されます。方法としては注入する前に行うプレ誘導体化、カラムから溶出後、オンラインで行うポスト誘導体化があります。
試料の溶解
サンプルの分解などに問題がなければ、できる限り溶離液(グラジエントでは初期溶離液)に溶解することをお薦めします。特に分取HPLCなどの大量注入の場合には、サンプルを溶かしている溶媒の影響が顕著に現れます。
試料の濾過
サンプル中の不溶物が分析カラムに混入すると、カラムフィルターの目詰まりによる圧力の上昇や、クロマト異常の原因となります。この現象を未然に防ぐため、フィルターなどを用いた試料の濾過が必要となります。(詳しくは後述)
ガードカラムの使用
前述したさまざまな前処理を行った後でも、目に見えないゴミや微量不純物が混入している可能性があります。これらが分析カラムに入らないようにするためにガードカラムの使用をお薦めします。
固相抽出のメカニズム
先述にある数多い前処理の中でも夾雑物の除去(クリーンアップ効果)や微量サンプルを濃縮することも簡単にできる固相抽出のメカニズムを紹介します。 固相抽出は、液ー液抽出に比べて溶媒消費量も少なく、短時間で高純度に精製できるため、医薬品・化粧品・天然物・食品・臨床・環境などのサンプルの前処理法として幅広く用いられています。抽出操作も非常に簡単で、限られた作業時間が有効に利用できます。以下に、固相抽出の一般的なメカニズムを示しますので、このメカニズムにしたがって抽出操作を行ってください。
コンディショニング
適当な溶液をカラムに流し、充填剤を平衡化する。試料によっては緩衡液を流した方が効率良く抽出できる場合がある。
試料の保持
平衡化させたカラムに試料溶液を流し、目的成分(■)と夾雑成分(▲●)を保持させる。
洗浄
適当な溶媒でカラムを洗浄し、夾雑成分である▲を選択的に溶出させる。
溶出
夾雑成分(●)をカラム内に保持させたまま、目的成分である■のみを選択的に溶出させる。
固相抽出カラムサイズの選択
ロット再現性が良く、幅広く使われている固相抽出カラムのイナートセップには以下に示すような幅広いカラムサイズのカートリツジが用意されています。処理したい試料の量に合わせ、過負荷にならない範囲でカラムサイズを選択してください。
充填剤量 | 500mg | 100mg | 200mg | 500mg |
---|---|---|---|---|
リザーバー容量 | 1mL | 1mL | 3mL | 2.8mL |
試料負荷量 | ≤2.5mg | ≤5.0mg | ≤10mg | ≤25mg |
最小抽出液量 | 125µL | 250µL | 500µL | 1.2mL |
充填剤量 | 1g | 2g | 5g | 10g |
---|---|---|---|---|
リザーバー容量 | 6mL | 12mL | 20mL | 60mL |
試料負荷量 | ≤50mg | ≤100mg | ≤250mg | ≤500mg |
最小抽出液量 | 2.4mL | 4.8mL | 12mL | 24mL |
固相の種類
基本的には種々の官能基を導入した化学結合型シリカゲルが使用されていますが、最近では使用溶媒にpH制限の無いポリマー母体の充填剤も注目され始めています。また、導入されている官能基については各メーカーによって若干の違いがありますが、大別すると極性基・無極性基・イオン交換基の3種類があげられます。以下に、食品や環境・医薬品分析など、幅広く使用されているイナートセップの官能基の種類をまとめましたので、固相選択の際の参考にしてください。
無極性基
C18(オクタデシル)・C8(オクチル)・C2(エチル)・PH(フェニル)・CH(シクロヘキシル)・SDB(スチレンジビニルベンゼン)・MA(メタクリレート)など
極性基
CN(シアノプロピル)・2OH(ジオール)・SI(シリカゲル)・AL-A(アルミナ酸性)・AL-B(アルミナ塩基性)・AL-N(アルミナ中性)・FL(フロリジルPR)
イオン交換基
陽イオン交換:CBA(カルボン酸)・PRS(プロピルスルホン酸)・SCX(ベンゼンスルホン酸)
陰イオン交換:NH2(アミノプロピル)・PSA(1,2級アミン)・DEA(ジエチルアミノ)・SAX(4級アミン)など
特殊結合基
GC(グラファイトカーボン)・活性炭など
試料の濾過
天然物の抽出液や生体サンプルなどは、微細不溶物を多く含んでおり、これらを除去しないでHPLCに注入すると、分析カラムが目詰まりを起こすなどの早期劣化が起こります。大切な分析カラムを長期間使用するためにも、試料の濾過はサンプル注入する直前に必ず行ってください。なお試料の濾過には、GLクロマトディスクなどの使い捨てフィルターが便利です。クロマトディスクは、4種類の膜を取り揃えておりますので、あらゆる溶解の濾過が可能です。また、膜の孔径として0.2および0.45ミクロン、ディスクの直径として4・13・25mmのものがありますので目的に合わせて選択してください。
水系(Aタイプ)
オレフィン系ポリマー膜を使用しているため、水溶液やアルコール溶液が濾過の対象となります。
イオンクロマト系(AIタイプ)
親水化ポリマー膜を脱イオン処理しているため、イオンクロマト分析のサンプル前処理に適しています。
非水系(Nタイプ)
親水化PTFE膜を使用しているため耐溶剤・耐薬品性に優れ、有機溶媒・強酸・強アルカリなどの濾過に適しています。
水系/非水系(Pタイプ)
親水化PTFE膜を使用しているため、アセトニトリル水溶液の濾過に適しています。