加熱脱離チューブの選び方
Ⅳ章-3 Tenax TA
概要
Tenax TA は、加熱脱離において最も広く用いられている吸着剤です。登録商標「Tenax」は製造元である Buchem B.V. が保有しており、「TA」は “Trapping Agent(捕集剤)” を意味します。もともとこの吸着剤はパックド GC カラム用の吸着剤として「Tenax GC」と名付けられており、古い文献にはその名称が記載されている場合があります。その後、Buchem B.V. によって名称が変更されました。
この方法は、従来の吸着剤を用いた EPA Method TO-1 および TO-2 に代わるものであり、キャニスターを用いた EPA Method TO-15 の代替手段としても利用できます。対象となる化合物のリストは TO-15 と同じで、具体的には 1990 年の米国大気浄化法改正で有害大気汚染物質として規定された 97 種類の VOC(揮発性有機化合物)の一部が含まれます。
Tenax TA の特長
・高い熱安定性
100〜400℃(C6〜C26 の範囲)の揮発性有機化合物を幅広く捕集できます。
・バックグラウンドが低い
多孔性ポリマーの中でも、自身から発生するブランクピークが 1 ng 未満と非常に少ないため、
微量分析に有利です。
・不活性な表面
反応しやすい化合物も安定的に保持でき、分解や損失を防ぎます。
・高い疎水性
水をほとんど保持しないため、水分の影響を受けにくく信頼性の高い分析が可能です。
・適度な比表面積
過剰でも不足でもないため、効率的な脱離やコンディショニングが行えます。
・幅広い用途に対応
ポンプを使ったアクティブサンプリングでも、パッシブサンプリング(拡散法)でも安定して
利用できます。
新しい Tenax TA は、ほぼ白色に近い色をしています。吸着剤は熱サイクルを繰り返すことで経時的に色が濃くなり、チューブ寿命の目安として利用できます。多くのユーザーは、Tenax TA を充填したチューブについて、ステンレス製よりもガラス製を好みます(上記写真参照)。
これは、吸着剤層の色が淡い黄色から濃い茶色に変化する様子を確認でき、その変化がチューブ交換の必要性を示すためです。
Tenax TA を使ったチューブサンプリングは、EPA TO-1、EPA IP-1B、ISO 16000-6:2011 といった国際的な標準規格で正式に採用されています。さらに、Tenax® TA は多くの加熱脱離装置に標準搭載されているコールドトラップ用の吸着剤としても選ばれています。
Tenax TA チューブ構成
Camsco の Tenax TA チューブは、標準で 200 mg の吸着剤を充填しています。
充填量の変更も可能ですのでお問い合わせください。
パッシブサンプリング用チューブには、サンプリング側の端にガラスウールプラグは使用されていません。
C6〜C26 の広範な揮発性有機化合物に対応
適用温度
・最高使用温度 :350℃
・コンディショニング温度:320℃
・加熱脱離温度 :300℃
テクニカルガイド

図1. Tenax TA の化学構造
・Tenax TA の化学名は Poly(2,6-diphenyl-p-phenylene oxide)
(略称 PPPO)です。このポリマーは、1969 年に General Electric 社
によって特許化され、その後 Akzo Research Laboratories により
GC カラムの充填材として開発されました。
・Tenax TA が初めて揮発性有機化合物(VOC)の濃縮用吸着剤として
使用されたのは、アメリカ航空宇宙局(NASA)が Skylab-4 に
おける船内大気のモニタリングのために採用したときでした。
その後、Tenax TA の大気モニタリング分野での応用は飛躍的に
拡大していきました。
・Camsco の Tenax TA チューブには、識別を容易にするための
3 本の環状バンドが付いています。
・Tenax TA は多孔性ポリマー系吸着剤の中ではバックグラウンドが
低いものの、Carbotrap B などのカーボン系吸着剤ほど低くは
ありません。
図 2 に、これら 2 種類の吸着剤のベースライン比較を示します。

図 2. Tenax(A)および Carbotrap(B)を用いた環境空気サンプルおよび吸着管ブランクのガスクロマトグラム。
ブランクは、サンプリングチューブと同じ保存時間(24 時間)を経た同一ロットのクリーンチューブを脱離して得られたもの。
サンプルの採取量は 1 リットルのみであり、ブランクも同じ体積で算出した。

図 3. Tenax TA を充填したパッシブサンプリングチューブ
・酸化による影響
塩素、オゾン、窒素酸化物、硫黄酸化物などの強い酸化性物質は、
Tenax® TA と反応して不要ピーク(反応副生成物など)が発生します。
文献でも広く議論されており、主な分解生成物として
ベンズアルデヒド、アセトフェノン、フェノール、安息香酸
が知られています。さらに少量ですが ベンゼン、トルエン、
キシレンも生成します。そのほか ヘキサナールやヘプタナールなどの
アルデヒド類 も検出されることがあります。
・温度による影響
温度は Tenax TA チューブの寿命に大きく関わります。
公表されている最大使用温度は 350℃ですが、実際には 325℃以下での
使用が推奨されます。より高い温度で繰り返し加熱すると、
吸着剤の熱分解や酸化分解が進み、バックグラウンドノイズが
不可逆的に増加してしまいます。
・ベンゼン捕集について
Tenax TA は EPA TO-1 に基づいてベンゼンの捕集に使用できますが、
最適な吸着剤とはいえません。Tenax TA におけるベンゼンの
安全な捕集容量は約 1 リットル にとどまります。
これに対して Carbograph 5TD は、BTEX(ベンゼン、トルエン、
エチルベンゼン、キシレン類)分析に特化した吸着剤で、
アクティブサンプリング・パッシブサンプリングの両方に最適化されて
います(詳細は CAMSCO アプリケーションノート「BTEX Tube」を参
照)。
・低分子や極性の高い化合物の捕集
Tenax TA は、ベンゼンより小さい分子を安定して捕集することが
できません。たとえば、低分子量炭化水素(C4 以下)
中程度(C5〜C12)の高極性化合物これらはしばしば
ブレークスルー(吸着剤を通り抜けてしまう現象)が起こります。
このような化合物を確実に捕集するには、Carboxen のような
より強力な吸着剤を Tenax TA と組み合わせ、
マルチベッドチューブとして使用することが推奨されます
(CAMSCO アプリケーションノート「Universal Tube」参照)。
Tenax TA と Tenax GR
Tenax GR = Tenax TA にグラファイト化カーボン(23%)を加えたもの。
Tenax GR が Tenax TA より優れている点
・水蒸気の吸着が少ないため、パージ&トラップ法で特に好まれる
・充填密度が高いので、同じチューブにより多くの吸着剤を詰められ、低分子化合物でも
ブレークスルーが起こりにくい
・加熱脱離用吸着剤としては、両者は大きく異なるというより共通点が多い
・Tenax TA よりも広い範囲の化合物を捕集可能
・色が異なる:Tenax GR は濃い灰色、Tenax TA はオフホワイト
・Tenax GR の方が疎水性と不活性が高い
参考文献
Standard Methods: EPA TO-1, EPA IP-1B, and ISO 16000-6:2011
Klenø, J.G.; Wolkoff, P.; Clausen, P.A.; Wilkins, C.K.; Petersen, T. Degradation of the adsorbent Tenax TA by nitrogen oxides, ozone, hydrogen peroxide, OH radical and limonene oxidation products. Environ. Sci. Technol. 2002, 36, 4121-4126
N. Schmidbauer and M. Oehme; Comparison of solid adsorbent and stainless steel canister sampling for very low ppt-concentrations of aromatic compounds in ambient air from remote areas. Fresenius Z Anal Chem (1988) 331:14-19



























