技術情報

加熱脱離チューブの選び方 

Ⅲ章 液体試料による検量線作成方法

分析装置で定量分析を行う際は、標準物質の導入方法や分析手順を実際の試料測定条件とできる限り一致させて校正することが重要です。
加熱脱離–ガスクロマトグラフ(TD-GC)システムでは、標準物質をサンプルチューブ上に直接導入し、システム全体で加熱脱離を行うことで、試料と同じ経路・条件で分析を再現できます。
これにより、標準物質も試料と同様の加熱脱離を経るため、装置の応答を正確に評価し、信頼性の高い検量線を得ることが可能です。

5-1.検量線作成ツールを用いた検量線作成方法

検量線作成ツールは、大気・室内空気採取用捕集管に標準試料を直接注入するツールです。
キャリヤーガス(窒素、純空気またはヘリウム)を一定流量(50~100 mL/min)で供給しながら、注入口から標準溶液を注入して気化させ、捕集管内に蒸気として導入します。液体標準はメタノールやアセトンなど、吸着剤に保持されにくい高純度溶媒を使用し、試料化合物のみを定量的に保持させます。注入後、キャリヤーガスを十分に流して溶媒をパージし、目的成分だけを残します。

検量線作成ツール

検量線作成ツール(Cat.No.3008-67810)は、注入ポートおよび吸着管接続部から構成されています。使用するためには検量線作成ツール用フローコントローラー、またはガス(窒素、純空気またはヘリウム)を50~100 mL/minでコントロールできるフローコントローラーが別途必要です。

検量線作成ツール用フローコントローラー

検量線作成ツール用フローコントローラーは、調圧器、ニードル機能付オンオフバルブで構成されています。供給圧力を120 kPaに設定することで、出口無負荷時に約50 mL/minの流量となるように出荷時調整されています。活性炭フィルターを内蔵しており、チューブへは浄化されたキャリヤーガスを供給することができます。検量線作成ツールとは1/16インチPTFEチューブで接続します。

5-2.検量線作成ツールを使用する際の留意点

溶媒の純度および選択

・使用する溶媒は クロマトグラフィーグレード以上の高純度品を選び、VOC不純物をほとんど
 含まないものを使用します。
・溶媒の清浄性を確認するため、まずは純溶媒のみでブランク測定を行ない、不純物ピークが
 ないことを確認します。
・可能な限り、吸着管内で保持されずキャリアガスで容易に排出される溶媒を選択します。 
 例)Tenax系吸着剤の場合:メタノール、アセトンなどを推奨。

ガスの純度および供給ライン

・キャリアガスには 窒素、純空気、またはヘリウム(純度99.999%以上) を使用します。
・炭化水素除去フィルター をガスラインに設置し、バックグラウンドを低減します。
・ガス供給源は装置の近くに配置し、短い配管と50~200kPaで調整可能なステンレス製ダイヤフラム式
 調圧器を使用します。
(備考)検量線作成ツール用フローコントローラーは、炭化水素除去を目的とした活性炭
    フィルターを内蔵しており、ステンレス製ダイヤフラム式調圧器を使用しています。

吸着剤の選定

・日常のモニタリングで使用している 吸着剤の種類・充填量 と同じ仕様のチューブを使用してください。
・校正溶液を注入する前に、チューブを十分にコンディショニングし、ブランク値を確認してください。
・標準試料が液体の場合、校正用チューブのサンプリング側の端にシラン処理された石英ウールを
 約8〜10 mmの長さで軽く詰めておきます。これにより、シリンジ針が注入時に溶液で濡れたまま抜けるのを
 防ぎ、針表面を拭き取る効果が得られ、再現性・精度が向上します。分析を行う前には、この石英ウールを
 取り除いてください。
・分析対象成分に適した吸着剤を選定することが極めて重要です。吸着剤の選択やチューブ設計については、
 CAMSCO のSorbent Selection Chart を参照してください。

5-3.操作手順

検量線作成ツール組図

1.捕集管の取り付け
コンディショニング済みの捕集管を検量線作成ツールに装着します。捕集管のサンプリング側の端を、ナットとPTFEフェラルを用いて検量線作成ツールに接続します。

2.キャリヤーガスの供給
キャリヤーガスを供給します。
検量線作成ツール専用フローコントローラーを使用する場合は、本体に 588 kPa 以下 の圧力でガスを供給し、圧力計の指示値が 120 kPa となるように調整します。この設定により、出荷時の調整値として 出口無負荷時に約 50 mL/min の流量が得られます。圧力を設定した後、ON/OFF ニードルバルブ を開くと、検量線作成ツールへキャリヤーガスが供給されます。供給されたガスは捕集管内部を通過してチューブの反対側から排出されます。

3.標準試料の添加
校正用の液体標準試料またはガス標準試料は、検量線作成ツール上部のセプタムを通してシリンジでチューブ内へ導入します。

・ガス標準を使用する場合
 分析対象成分の質量が実際のサンプリングで得られる量に近くなるよう、適切な容量のガスタイトシリンジを
 選定します。たとえば、1 ppm のガス標準試料 1 mL は、1 Lの空気試料における約 1 ppb に相当します。
 必要量のガス標準試料をシリンジで吸い取り、検量線作成ツールのセプタムを通してキャリヤーガス流中に
 注入します。注入後は、捕集管を約 5 分間、検量線作成ツールに接続したままにしておきます。

・液体標準を使用する場合
 液体標準溶液を調製し、実際のサンプリングで捕集される化合物の質量に相当する濃度に調整します。
 シリンジに必要量(通常 1~5 µL)の溶液を取り、セプタムを通してゆっくりと注入します。
 シリンジの針先を吸着管内の石英ウールに軽く触れる位置まで差し込み、そこから約 1 mm 引き戻して
 標準液を注入します。
 注入後、針を再び石英ウールに軽く触れるまでゆっくり押し戻し、そのままシリンジを抜き取ります。
 液体標準はキャリアガス流中で気化し、チューブ内の吸着剤に保持されます。
 その後、十分な量のキャリアガスをチューブに通して、標準試料の溶媒成分をほぼ完全に除去します。
 一方で、目的成分は定量的に吸着させるようにします。
 (詳細は「吸着剤と溶媒の選定における意事項」参照)

4.標準試料の分析
捕集管を検量線作成ツールから取り外し、通常のサンプルと同様に分析します。

5.検量線の作成
使用する各濃度の校正標準液について同じ手順を繰り返し、検量線を作成します。
理論的には、ブレークスルーが発生していなければ直線となるはずです(図参照)。

参考(N.B.)得られるグラフは次の形式の直線になります。

  y = mx + c
    ・m(傾き):応答係数を表し、「注入した化合物1 ngあたりの
           ピーク面積(area counts)」に相当します。
    ・c(切片) :試料を注入していないときのピーク面積を表し、
           理論上はゼロ付近になるのが理想です。

5-4.校正溶液の調製と計算

検量線は通常、3点以上(理想的には5点)の標準溶液で作成します。
中間濃度は実サンプル中の成分量に近い値とし、低濃度はその約1/10、高濃度は約2倍を目安に設定します。まず、サンプル中に含まれる分析対象成分のおおよその質量を見積もり、濃度が未知の場合は、規制値の上限の1/10を仮定値として使用します。
求めた質量を基に、標準溶液の濃度を計算します。
この手順を理解しやすくするため、以下に具体的な計算例を示します。

アクティブサンプリングによるn-Heptaneの場合

必要な情報
・想定される大気中濃度:C
・捕集する空気量:V
・成分の分子量:M

例:
C = 100 ppb
V = 10 L
M = 100 g/mol

計算
20 ℃・大気圧下では、1モルの気体=約24 Lを占める。
したがって、24 Lのn-ヘプタン蒸気は約100 gに相当。
→ 24 Lの空気中に100 ppbのn-ヘプタンが含まれている場合、10 µgの分析対象物が存在。
→ 10 Lの空気では、10/24 × 10 µg = 4.17 µgが含まれる。

結果
中間レベルの標準濃度は1~5 µL注入で約4 µgのヘプタンが導入されるように設定します。

パッシブサンプリングによるTolueneの場合

必要な情報
・想定される大気中濃度:C
・サンプリング時間:T
・拡散吸着速度(Uptake rate):U

例:
C = 1 ppm
T = 8時間(480分)
U = 1.67 ng・ppm⁻¹ ・min⁻¹

計算
吸着チューブ上に吸着される質量(ng)
= 大気中濃度(ppm) × 曝露時間(分) × 拡散取り込み速度(ng・ppm⁻¹・min⁻¹)
= C × T × U =× 1 × 480 × 1.67 = 801.6 ng

結果
中間レベルの標準濃度は1~5 µL注入で約800 ngのトルエンが導入されるように設定します。

5-5.吸着剤と溶媒の選定における注意事項

・分析対象化合物に適した吸着剤を使用し、通常のモニタリングと同じ吸着剤量のチューブを用いてください。
・可能であれば、吸着剤に強く保持されずキャリヤーガスで容易に除去できる溶媒を選択します。
(例:Tenax 系吸着剤の場合はメタノールまたはアセトンを推奨)
・溶媒が保持されない場合は、十分な量のキャリヤーガスでチューブをパージし、95%以上の溶媒を除去して
 ください。
・溶媒が保持される場合は、注入量を1 μL以下に抑えることを推奨します。

200 mgのTenax TA を充填した吸着管における代表的な破過容量(ブレイクスルー容量)

成分 破過容量(L) 成分 破過容量(L)
1,1,1-Trichloroethane 2.2 Ethoxyethylacetate 30
1,1,2-Trichloroethane 68 Ethylacetate 7.2
1,1-Dichloroethylene 0.84 Ethylbenzene 280
1,2-Dichloroethane 10.8 Ethyoxyethanol 10
1,4-Dichlorobenzene 580 Methanol 0.07
2-Butanone 6.4 Methoxyethanol 6
2-Hexanone 200 Methoxypropanol 27
4-Methyl-2-pentanone 52 Naphthalene 20000
Acetone 1.2 n-Hexane 6.4
Benzene 12.5 Pentane 1
Butan-1-ol 10 Styrene 300
Butan-2-ol 5.6 Tetrachloroethane 220
Butoxyethanol 70 Tetrachloroethylene 96
Carbon tetrachloride 12.4 Toluene 76
Chloroform 3.8 Trichloroethylene 11.2
Dichloromethane 0.9 Trimethylbenzene 3600
Ethanol 0.36 Xylene 600