加熱脱離チューブの選び方
1章-3 代表的な捕集管の種類と用途
3-1. 代表的な捕集管の種類と用途
加熱脱離(TD)-GC/MS 分析では、目的成分を確実に捕集し、損失なく脱離させるために、適切な捕集管の選定が不可欠です。ここでは代表的な捕集管の種類と、その主な用途・特長を一覧表としてまとめました。
| チューブ名 | 吸着剤の構成 | 対応範囲 | 主な用途 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| Tenax TA | 単層 | C6~C26 | EPA TO-1, 一般VOC、溶剤、有機ガス | ポリマー系としてはアーティファクト(副生成物)が少ない(<1ng) |
| Tenax GR (Tenax TA にグラファイトカーボンを加えた吸着剤) | 単層 | C7~C30 | EPA TO-1, 一般VOC、溶剤、有機ガス | Tenax TA と共通点が多いが、疎水性が高く、充填密度が高いので低分子化合物でも破過が起こりにくい。 |
| Carbotrap202 | Carbograph2 / Carbograph1 | C5~C20 | 作業環境、一般VOC、環境測定 | 耐熱性が高く、アーティファクト(副生成物)が非常に少ない(<0.1ng)。高い疎水性により耐湿性にも優れる。 |
| Carbotrap 217 | Carbograph1 / Carbosieve S-Ⅲ | C4~C16 | EPA TO-17、一般VOC、環境測定 | 相対湿度 65%未満かつ温度 30℃ 未満の条件下で空気量 2 L に対応可能 |
| Carbotrap 300 | Carbograph2 / Carbograph1/ Carboxen 1000 | C3~C16 | EPA TO-17、一般VOC、環境測定 | 相対湿度 65%未満かつ温度 30℃ 未満の条件下で空気量 2 L に対応可能 |
| Carbotrap 349 | Carbopack Y/ Carbograph 1/ Carboxen 1003 | C3~C16 | NIOSH2549、作業環境、室内環境測定 | サンプリング流量は 10~50 mL/min とし、最小 1 L、最大 6 L の空気試料を採取可能 |
| Air Toxics Tube | Carbograph 1 / Carbosieve S-III | C3~C12 | EPA TO-14/15、 有害大気汚染物質 | EPA TO-14 に定義された、プロペンからヘキサクロロ-1,3-ブタジエンまでの揮発性範囲に対応 |
| Universal Tube | Tenax TA / Carbograph 1 / Carbosieve S-III | C2~C26 | 未知試料、広範囲スクリーニング | 相対湿度 65%未満かつ温度 30℃ 未満の条件下で、空気サンプリング量は最大 2 L まで使用可能。 |
吸着剤の選定は、対象成分の沸点特性やサンプリング時の湿度条件によって最適な種類が異なります。各吸着剤の特長については、次章で解説します。
3-2.加熱脱離で使用される吸着剤の種類
代表的な吸着剤である 「ポーラスポリマー」、「グラファイトカーボンブラック(GCB)」、「カーボンモレキュラーシーブ(CMS)」 の特長をまとめました。吸着剤の選定においては、保持力・吸湿性・ブリード量が重要な評価ポイントとなります。
| 項目 | ポーラスポリマー (例:Tenax TA) |
グラファイトカーボン ブラック(GCB) |
カーボンモレキュラー シーブ(CMS) |
|---|---|---|---|
| 主成分 | 有機ポリマー | グラファイトカーボン | 元素状炭素 |
| 比表面積 | 中(35 m²/g) | 低(5〜240 m²/g) | 高(400〜1500 m²/g) |
| 保持力 | 弱〜中 | 中 | 強 |
| 極性 | 非極性~弱極性 | 非極性 | 非極性〜やや極性 |
| 吸湿性 | 低(疎水性) | 低(疎水性) | 中(弱い吸湿性) |
| 捕集範囲 | C6〜C26 | C8〜C30 | C2〜C6、永久ガス |
| 主な用途 | 一般VOC、SVOC | 芳香族・高沸点化合物 | 微量ガス・低分子VOC |
| ブリード量 | 比較的低い(<1ng) | 低い(<0.1ng) | 低い(<0.1ng) |
| 主な注意点 | 高濃度オゾン(100〜500 ppb)雰囲気中では、Tenax TA と反応して不要ピークが発生 | 物理的衝撃に弱く、脆いため破砕しやすい。 | 「メモリー効果」が起きやすく、再コンディショニングが必要 |
ポーラスポリマー
Tenax TA は、熱脱離分析で最も広く使用されているポリマー系吸着剤です。ポーラスポリマー系吸着剤には極性の高いタイプなどもあり、幅広い成分の捕集に対応できますが、製品によってはブリード量が多い場合があるため注意が必要です。
| 吸着剤名 | 表面積 | 捕集対応範囲 | 特長 |
|---|---|---|---|
| Tenax TA | 35m2/g | C6 ~ C26 | C5〜C12の高極性化合物に対しては、しばしばブレークスルーが起こるので注意が必要。 |
| Tenax GR | 24m2/g | C7 ~ C30 | Tenax TAに比べて水蒸気の吸着が少ないため、パージ&トラップ法で特に好まれる |
| Chromosorb106 | 800m2/g | C5 ~ C12 | スチレン/ジビニルベンゼン(DVB)共重合体。疎水性で不活性な吸着剤だが、アーティファクトが多い(約10 ng) |
グラファイトカーボンブラック(GCB)
グラファイトカーボンブラックは、中~高分子量化合物の保持・脱離に適し、疎水性により湿度の影響を受けにくい吸着剤です。また、高純度でバックグラウンドが低く、微量分析にも適しています。
| 吸着剤名 | 表面積 | 捕集対応範囲 | 特長 |
|---|---|---|---|
| Carbograph 2 (Carbopack C) |
10m2/g | C8 ~ C20 | 一般的に、Carbograph 2 は Carbograph 1 よりも高分子量化合物(より重い成分)の分析に適しています。 |
| Carbograph 1 (Carbopack B) |
100m2/g | C5 ~ C12 | 広範囲の化合物に対応し、対象化合物にはケトン類、アルコール類、アルデヒド類(ホルムアルデヒドを除く)が含まれる。 |
| Carbograph Z | 220m2/g | C3 ~ C9 | 軽質炭化水素(C₃〜C₉)に適し、高い耐熱性。 |
| Carbograph 5 | 560m2/g | C3 ~ C8 | 耐熱性が高く、アーティファクト(副生成物)が非常に少ない(<0.1ng)。高疎水性で耐湿性に優れる。 |
カーボンモレキュラーシーブ(CMS)
カーボンモレキュラーシーブは、小分子量化合物の保持・脱離に最適化された吸着剤です。わずかに水分を保持する性質があるため、高湿度条件では使用に注意が必要です。またメタノールを保持するため、液体標準を導入する場合は注入量を減らすなどの工夫が求められます。
| 吸着剤名 | 表面積 | 捕集対応 範囲 |
特長 |
|---|---|---|---|
| Carboxen 569 | 485m2/g | C2 ~ C5 | Carboxen 563 および 564 に類似しているが、有機化合物に対する保持容量がより大きく、水に対する保持容量が小さい。 |
| Carboxen 1000 | 1200m2/g | C2 ~ C4 | Carbosieve S-IIIよりも高い脱離効率を示すが、強い親水性を持つため、湿度の高い環境では使用を避ける。 |
| Carboxen 1003 | 1000m2/g | C2 ~ C5 | Carboxen 1000、Carbosieve S-IIIに類似しているが、これらよりも水の保持量がさらに少ない。 |
| Carboxen 1016 | 75m2/g | C3 ~ C9 | CMS(Carbon Molecular Sieve)系の中で最も吸着力が弱い吸着剤で、C9までの範囲に対応。 |
| Carbosieve S-III | 820m2/g | C2 ~ C4 | 低分子化合物に対して高い吸着容量(ブレークスルー容量)を持ち、中程度の親水性を示す。 |



























