加熱脱離チューブの選び方
Ⅱ章 サンプリング方法 (CAMSCO技術資料)
本書は、CAMSCO 製加熱脱離(TD)チューブを用いた大気サンプリングの一般的なガイドラインを示しています。
1.サンプリングの方向
2.サンプリング前後のチューブ保管方法
3.アクティブサンプリングとパッシブサンプリングの比較
4.アクティブサンプリングとブレークスルー体積
5.パッシブサンプリングと拡散取り込み速度
6.分析と定量化
1. サンプリングの方向
チューブに記載された 文字や番号が読める方向が、空気の流れるサンプリング方向 です。
上図のとおり、サンプリング側の端 は空気試料が流入する側です。一方、反対側の端は、パッシブサンプリングの場合は密閉したままにし、アクティブサンプリングの場合はサンプリングポンプに接続します。
CAMSCO 製のスチールチューブでは、二重の「コルセット」加工がある側がサンプリング側の端です。
CAMSCO 製の焼結ガラスチューブでは、フリット(焼結フィルター)が取り付けられた側がサンプリング側の端です。
マルチベッドチューブでは、より弱い吸着剤をサンプリング側の端に充填する必要があります。
脱離時の流れはサンプリング時とは逆方向になります。
加熱脱離装置にチューブを装填して分析する際は、お使いの装置の指示に従ってください。
2. サンプリング前後のチューブ保管方法
サンプリング前には、チューブを十分にコンディショニングする必要があります。詳細については CAMSCO コンディショニング手順書 を参照してください。
フィールドでのサンプリング前後には、チューブを 圧着キャップで密封する必要があります。
まずキャップを手でしっかり締め、その後レンチでさらに 1/4回転分だけ締め込みます。
過度に締め付けるとキャップ内部のフェルールが破損する恐れがあり、逆に不十分だと汚染につながります。
保管時間は、吸着剤の種類や保管環境によって大きく左右されます。
・チューブを 冷凍庫(0℃未満)には保管しないでください。
・チューブを 冷蔵庫に入れるのも避けてください。ただし、サンプルを保持したマルチベッドチューブの
場合は例外です。シングルベッドチューブ(未使用・使用済みにかかわらず)や、未使用のマルチベッド
チューブは冷蔵保存の必要はありません。ただし場合によっては、冷蔵することで 弱い吸着剤から強い
吸着剤へのサンプル移動を遅らせる効果があります。
・チューブを冷蔵庫や低温環境から取り出した直後にキャップを外さないでください。常温に戻るまで密封
したままにしておくことで、水分の結露を防ぎ、GC/MS での問題を回避できます。
・一部のポリマー系吸着剤(例:Chromosorb や Porapak)は、時間の経過とともに自動的に芳香族の
バックグラウンドを発生することがあります。したがって、コンディショニング後はできるだけ早く使用する
ことが推奨されます。
一方、カーボン系吸着剤はより長期間の保存が可能で、通常は数週間程度保存できます。
・数か月以上保管したチューブは、再度コンディショニングが必要です。
・各サンプルバッチについて、ブランクチューブ(コンディショニング済みだが現場に持ち出していないもの)
とコントロールチューブ(現場に持ち出したがサンプリングしていないもの)をテストすることで、
清浄度を確認することが推奨されます。
分析用キャップやマイクロキャップは、長期保存用には適していません。
3.アクティブサンプリングとパッシブサンプリングの比較
アクティブサンプリング(ポンプサンプリング)
真空ポンプを使用し、一定量の空気をチューブに通して採取する方法。
パッシブサンプリング(拡散サンプリング)
拡散作用を利用し、一定時間かけて試料を採取する方法。
両者の比較は以下の表にまとめています。
| アクティブサンプリング | パッシブサンプリング | |
|---|---|---|
| ポンプや電源が必要か? サンプリング中に騒音を発生するか? |
はい | いいえ |
| パッシブサンプリング用キャップが必要か? | いいえ | はい |
| 対応するチューブ材質 | 金属もしくはガラス | 金属チューブのみ |
| 対応するチューブサイズ | 任意のサイズ | 3.5 inch x ¼ inch O.D. |
| 各チューブに対応する吸着剤層数 | シングルまたはマルチベッド | シングルベッドのみ |
| 対応する大気中 VOC 濃度範囲 | 制限なし | 2 μg/m3 ~ 10 mg/m3 |
| 微量分析(サブ ppb ~ ppt レベル)に対応可能か? | はい | 必ずしもそうではない |
| 最初の吸着剤の前にガラスウールプラグが必要か? | Yes or No | いいえ |
| サンプル採取 | 体積(L) | 時間(時/日/週) |
| 結果は特定の時点での空気質を示すか? | はい | いいえ |
| 結果は数日~数週間の平均的な空気質を示すか? | いいえ | はい |
| 結果は周囲の風や温度の影響を受けるか? | いいえ | はい |
| 結果は逆拡散やチューブ内での移動の影響を受けるか? | いいえ | はい |
| ブレークスルーの可能性はあるか? | はい | いいえ |
| 圧力降下の影響に敏感か? | はい | いいえ |
| 吸着層の利用効率 | 全体 | ごく先端部分のみ |
| データ精度 | 定量的 | 準定量的 |
| 大気中 VOC 濃度を算出するには、 どのパラメータが必要か? |
サンプリング量 | 拡散速度 |
4. アクティブサンプリングとブレークスルー体積
サンプリングポンプは多くのメーカーから容易に入手でき、CAMSCO のチューブは高品質なポンプであればどれでも使用可能です。
バッテリー駆動ポンプは携帯可能で個人モニタリングに便利です。AC 電源ポンプは長期間のサンプリングにおいて信頼性が高い傾向があります。
近年のポンプは、多チャンネル並列サンプリング、プログラム機能、小型化、低騒音、無線接続、リモート制御など、ユーザーフレンドリーな機能を備えています。
しかし、最も重要なのはやはり 信頼性と精度です。サンプリングポンプの品質は、データの再現性やチューブ寿命に直接影響します。
サンプリング流量は通常 30~200 mL/min で、その中でも 50 mL/min または 60 mL/min が計算のしやすさからよく使われています。
流量が 30 mL/min 未満では、多くのポンプは精度や直線性が低下します。特に 10 mL/min 前後で安定して作動するポンプはほとんどありません。
・30 mL/min未満で安定して作動するポンプとして、SP209-100Dual があります。
・10 mL/min以下でも安定して動作するポンプとして、SP209-10Dual があります。
200 mL/min を超える流量では、吸着層に過大な負荷がかかり、短絡経路(ショートパス)の発生や、脆い吸着剤の破砕によってチューブ寿命を縮める恐れがあります。
したがって、中程度の流量で長時間サンプリングするのが推奨されます。
採取すべき空気量は、チューブの種類、対象成分の濃度、湿度など複数の要因によって決まります。
例として、Air Toxics Tube(EPA TO-17 Tube Style 2 としても知られる) は、C3~C12 の化合物に対応しており、湿度 65%未満かつ温度 30℃ 未満であれば 2 L の空気試料を採取できます。一方、湿度が 65%を超え、温度が 30℃ を超える環境では、0.5 L に制限する必要があります。また、C4 以上の化合物であれば、5 L 以上に拡張して採取可能です。
アクティブサンプリングではブレイクスルー(破過)が大きな懸念事項です。
報告限界(検出下限)を下げるためにサンプリング量を増やすことは望ましい一方で、
採取しすぎると吸着管が飽和してブレークスルーを引き起こす可能性があります。
サンプル量は 安全サンプリング容量(Safety Sampling Volume、SSV) を超えてはいけません。
安全サンプリング容量は、ブレークスルー体積の 2/3 に相当する容量として定義されています。
安全サンプリング容量やブレークスルー体積の詳細については、CAMSCO の Tenax TA 向け
Breakthrough Volume ポスター または EPA Method TO-17 の付録 1 を参照してください。
チューブが古くなると、吸着剤が劣化するため安全サンプリング容量は減少します。
チューブ寿命を確認する最も簡単な方法のひとつが 「バックアップチューブ試験」です。
古いチューブをテスト対象として、新しい/清浄なチューブと直列につなぎ、その後にサンプリングポンプへ接続します(上図参照)。サンプリング後、両方のチューブを分析します。もし 2 本目のチューブに分析対象成分が 5%以上検出された場合、最初のチューブでブレークスルーが発生していることを示します。
バックアップチューブの使用は消耗品コストを増やしますが、サンプルコストへの影響はほとんどありません。むしろ、データの信頼性を保証する強力な裏付けになります。
5.パッシブサンプリングと拡散取り込み速度
「業界標準」の受動サンプリングチューブは、長さ 3.5 インチ × 外径 1/4 インチのステンレスチューブ、または不活性コーティングされたステンレスチューブとして規定されています。CAMSCO のチューブは、この業界標準に厳密に準拠して製造されています。
パッシブサンプリングチューブの断面積は 0.191 cm² で、吸着剤を保持するメッシュディスクがサンプリング端から 14.3 mm の位置に配置されています。これにより、拡散経路の長さ(エアギャップ)は通常 1.5 cm となります。
パッシブサンプリングチューブは、空気が自然に拡散して中に入る仕組みなので、入口側に決まった長さ(1.5 cm)の空気の通り道=エアギャップを必ず確保する必要があります。
そのため、通常のチューブにある ガラスウール(吸着剤を押さえる詰め物)を入口側に置かずに作られています。そのため、ご注文時には必ず「パッシブサンプリング用」と明記いただくことを強く推奨します。
チューブの入口(サンプリング側の端)には 2 本の「コルセット加工」(リング状の出っ張り)があります
(下図参照)。
・1 本目のコルセットは、パッシブサンプリングキャップ内の Oリングを固定するもの。
・2 本目のコルセットには ペンクリップが取り付けられ、個人用の大気モニタリング
を容易にする役割があります。
さらに重要なのは、2本目のコルセットが チューブ内の金属メッシュを押さえ、常に1.5 cmのエアギャップを正確に保つ役割を果たしている点です。
一部メーカーでは 2 本目のコルセットだけを設けたチューブを製造していますが、CAMSCO のチューブは必ず二重コルセットを採用しています。その後ろには バーコードとシリアル番号が刻印されており、その長さが PerkinElmer ATD 熱脱離装置における加熱ゾーン位置を示す目安になります。
拡散取り込み速度(Diffusive Uptake Rate)は、パッシブサンプリング後の計算において非常に重要なパラメータです。しかし、この値を正確に測定できる高度な装置や技術を持つ研究室は限られています。
なお、パッシブサンプリングでは次の3つが前提条件となります:
・サンプリング端での対象物質の濃度は環境濃度と等しいこと。
・吸着剤表面での対象物質の濃度はゼロであること。
・両者の間には直線的な濃度勾配が存在すること。
パッシブサンプリングは、前提条件(3つの仮定)が成り立つ限り長時間行うことができます。
そのために望ましいのは:
・幾何学的仕様が厳密に定められた CAMSCO 製の高品質「業界標準」チューブを使用すること
・対象化合物に十分強い吸着力を持つ吸着剤を選び、逆拡散を無視できるようにすること
・パッシブサンプリングキャップを使用し、濃度勾配を安定させ、乱流を最小化すること
これらの前提が成り立つ場合、フィックの第一法則(Fick's 1st Law of Diffusion) が適用され、
分析対象物質は吸着剤表面へ以下の要因に依存した速度で拡散します:
・サンプリングチューブの幾何学的条件(例:エアギャップの長さ、サンプリング端の断面積)
・曝露時間
・対象物質の空気中での拡散係数
・周囲環境中の対象成分濃度

例として、Carbograph 5TD / Carbopack X 上での BTEX の拡散取り込み
速度(Diffusive Uptake Rates)は以下の通りです:
・ベンゼン:1.99 ng/ppm・min
・トルエン:1.98 ng/ppm・min
・エチルベンゼン:2.3 ng/ppm・min
・p-キシレン:2.00 ng/ppm・min
・o-キシレン:2.10 ng/ppm・min
パッシブサンプリング用アクセサリーには、パッシブサンプリングキャップ、ペンクリップ、保護用チューブシェルターがあります。
パッシブサンプリングキャップは、虫やハチ、雨滴がチューブ内に入るのを防ぎます。
さらに、乱流の影響を最小化する役割も果たします。
CAMSCO のチューブシェルターは、直射日光や雨からチューブを守るためのもので、標準仕様でフェンスライン取り付け具と二重チューブホルダーが付属しています。ホルダーの位置は、業界標準チューブに最適化されています。
パッシブサンプリングチューブの設置方法
・個人モニタリングの場合:
チューブは着用者の呼吸域、つまり 胸元や襟元の高さに取り付けるか、ヘルメットに直接装着します。
・屋外モニタリング(例:フェンスライン監視)の場合:
チューブは 地上から約5フィート(約1.5 m)の高さに設置します。
これは一般的な人の鼻の高さに相当します。
いずれの場合も、チューブのサンプリング側の端を下向きに固定する必要があります。これにより雨滴や粒子が直接入り込むのを防ぎます。
パッシブサンプリングは、サンプリング側の端の圧着キャップを外した時点で開始し、再びキャップを取り付けた時点で終了します。現場担当者は、開始時刻と終了時刻に加え、温度や湿度などの必要なパラメータを記録する必要があります。
6. 分析と定量
チューブの分析は、対応するTD-GC/MSシステムで行ないます。
サンプリングが終了したらできるだけ早く分析に送ることが推奨されます。
定量には以下のものが利用されます:
・化学標準物質(多くの標準物質メーカーから入手可能)
・キャリブレーション溶液注入装置(Cat.No.3008-67810、検量線作成ツールなど)
・拡散取り込み速度(パッシブサンプリングの場合のみ。
特定の化合物について拡散取り込み速度が利用できない場合、以下の選択肢があります:
(1) フィックの式および文献にある拡散係数から理想値を算出する。
(2) 次のいずれかの国際的に認められた手順に基づいて実験的に算出する:
・Protocol for assessing the performance of a diffusive sampler; UK Health & Safety Executive,
Methods for the Determination of Hazardous Substances No. 27.
・CEN Pr EN 838: Workplace atmospheres - requirements and test methods for diffusive samplers
for the determination of gases and vapours; CEN/TC 137/N55 (1991)



























