技術情報

3章 静的調製法の操作手順

3-1. EPA Method TO-15Aにおけるキャニスター加圧希釈手順

米国EPA(環境保護庁)が定める大気中のVOC分析法「Method TO-15A」では、内面を不活性化処理したステンレスキャニスターを用いた標準ガスの多段希釈手順が詳細に規定されています。シリンジ等で一定体積を注入する手法とは異なり、圧力に基づいて体積比を決定するため、キャニスターごとの正確な容積に左右されずに高精度な希釈が可能です。

具体的な作業手順

キャニスタークリーニング装置の画像

キャニスタークリーニング装置

手動圧希釈装置の画像

手動圧希釈装置

自動圧希釈装置の画像

自動圧希釈装置

1. キャニスターの事前処理(洗浄・高真空引き)
専用のキャニスター洗浄装置を用い、加熱しながら加圧(加湿ゼロエア/窒素導入)と高真空排気を複数サイクル繰り返して内部の微量不純物を完全に除去します。

2. システムの接続と脱気
キャニスターをマニホールドに接続し、配管内を含めて真空状態にします。

3. 初期圧力の測定 (𝑃𝑠𝑏)
標準ガス導入直前のキャニスター内の絶対圧力 𝑃𝑠𝑏を測定・記録します。

4. 原ガス(または試薬)の導入
高真空のキャニスターに対し、高精度の希釈装置やシリンジを用いて、原ガスまたは液体試薬を規定量正確に注入します。

5. 標準ガス導入後圧力の測定 (𝑃𝑠𝑎)
標準ガス導入後の絶対圧力 𝑃𝑠𝑎を測定・記録します。この差分(𝑃𝑠𝑎−𝑃𝑑𝑎)が、添加された標準ガスの分圧となります。

6. 希釈ガスの導入(加湿ゼロエアの導入)
希釈ガスとして加湿された高純度ゼロエアや超高純度窒素などを充填し、加圧希釈します。

※水分(加湿)を加える理由
EPA Method TO-15Aにおいて希釈ガスに適度な湿度を持たせるのは、水分子によってキャニスター内壁の活性点を保護(不活性化)し、極性化合物や極低濃度のVOC成分が壁面に吸着・分解するのを防ぐためです。

7. 最終圧力の測定 (𝑃𝑑𝑎)
希釈ガス充填後の最終的な絶対圧力 𝑃𝑑𝑎を測定・記録します。

8. 濃度の計算式
各段階で測定した絶対圧力(kPa)を用いて、最終濃度 𝐶𝑓を以下の公式で算出します。

濃度の計算式

実際に使用する装置の詳細に関しては、下記リンクをご参照ください。

3-2.真空捕集びんを用いた標準ガスの調製手順

環境省の「有害大気汚染物質測定マニュアル」等では、ガラス製の真空捕集びん(採気びん)とマイクロシリンジを用いた、液体試薬(または原ガス)からの段階的な静的調製の手順が規定されています。以下は調製手順の参考例です。

3-2-1. 捕集びんの事前処理(洗浄・ブランク除去)

使用前の捕集びんは、目的に応じて以下のような洗浄・ブランク除去処理を行います。

分解洗浄(湿式法)

びん本体、バルブ(コック部)、セプタムをそれぞれ分解し、適切な有機溶媒や純水で洗浄したあと乾燥させます。高濃度成分や高沸点成分の器壁への付着・残留が懸念される場合に有効です。洗浄後、真空捕集びんに撹拌用テフロンボールを4-5個入れます。*1

真空捕集びん分解のイメージ図

加熱・パージ洗浄(乾式法)

室内空気中化学物質測定マニュアル等に記載の手法です。真空捕集びん内を高純度窒素ガスなどの不活性ガスで置換し、60℃程度で加温して1時間放置したのちに真空排気します。この「不活性ガス置換・加熱・真空排気」の一連の操作を数回繰り返すことで、器壁に吸着した微量残留成分を完全に除去します。洗浄後、真空捕集びんに撹拌用テフロンボールを4-5個入れます。*1
操作方法に関しては「3-2-2.希釈ガスへの置換」をご参照ください。

真空捕集びん加熱イメージ図

その他

対象成分や洗浄環境により、真空ポンプでの減圧と配管を外しての大気開放を繰り返す簡易的な手法でも一定の洗浄効果が得られます。測定対象や要求精度に応じて適切な洗浄方法を選択してください。

*1:原ガス(気体試料)などを調整する場合、分子が自然拡散するため拡販用テフロンボールは不要です。

3-2-2. 希釈ガスへの置換

洗浄した真空捕集びん内を希釈ガスで置換します。置換の際は、内部圧力が大気圧と同じになるように調整します。希釈ガスを導入する接続に関しては、以下の図を参考にしてください。

加圧(50 kPa以内)で洗浄ガスを導入する場合

加圧(50 kPa以内)で洗浄ガスを導入する場合のイメージ図

真空捕集びんのガス置換手順例

1. 供給圧力の設定
 (E) 圧力調整器の供給圧力を 50 kPa にセットします。

2. バルブの初期設定
 (A) バルブを開き、(B) 3方バルブを (C) 真空ポンプ側 に切り替えます。

3. 一次減圧(真空引き)
 (C) 真空ポンプの電源をONにし、(F) 真空捕集びん内を 1.33 kPa 以下 まで減圧します。

4. 洗浄ガスの導入
 (B) 3方バルブを (E) 圧力調整器側 に切り替えます。
 (D) ストップバルブをゆっくり開き、(G) 連成計の針が 50 kPa を指すまで洗浄ガスを供給します。

5. 導入停止
 (D) ストップバルブを閉じます。

6. 二次減圧(置換排気)
 (B) 3方バルブを (C) 真空ポンプ側 に切り替え、(F) 真空捕集びん内を再度 1.33 kPa 以下 まで減圧します。

7. 洗浄ガスの再導入
 (B) 3方バルブを (E) 圧力調整器側 に切り替え、(G) 連成計の指示値が 50 kPa になるまで洗浄ガスを供給
 します。

8. 繰り返し洗浄
 上記 5.〜 7.の工程(減圧とガス供給)を数回繰り返します。

9. 大気圧調整
 (F) 真空捕集びん内が洗浄ガスで 50 kPa に加圧されている状態から、(A) バルブをゆっくり開いて大気圧
 (常圧) に戻します。

【注意事項】
真空捕集びんは、減圧状態で気体を採取するための器具です。内部を高圧に加圧して使用することは原則できませんので、加圧する場合は必ず 50 kPa 以内の圧力でご使用ください。

大気圧で洗浄ガスを導入する場合

大気圧で洗浄ガスを導入する場合のイメージ図

真空捕集びんのガス置換手順例

1. 洗浄ガスの準備
 (H) サンプリングバッグに洗浄ガスをあらかじめ充填します。

2. バルブの初期設定
 (A) バルブを開き、(B) 3方バルブを (C) 真空ポンプ側 に切り替えます。

3. 一次減圧(真空引き)
 (C) 真空ポンプの電源をONにし、(F) 真空捕集びん内を 1.33 kPa 以下 まで減圧します。

4. 洗浄ガスの導入
 (B) 3方バルブを (H) サンプリングバッグ側 に切り替えます。真空捕集びん内が大気圧になるまで洗浄ガスが
 自然吸入(供給)されます。

5. 二次減圧(置換排気)
 (B) 3方バルブを (C) 真空ポンプ側 に切り替え、(F) 真空捕集びん内を再度 1.33 kPa 以下 まで減圧します。

6. 洗浄ガスの再導入
 (B) 3方バルブを (H) サンプリングバッグ側 に切り替え、真空捕集びん内に洗浄ガスを再導入します。

7. 繰り返し洗浄
 上記 5.〜 6. の工程(減圧とガス供給)を数回繰り返します。

【注意事項】
本手法(サンプリングバッグ使用)の場合、バッグ材質に由来するブランク成分、ガスの透過、ならびに周囲の空気成分のコンタミネーション(混入)が精度に影響する場合があります。測定対象成分の特性や要求精度に合わせて、適切なガス導入方法をご検討ください。

3-2-3. 洗浄後のブランクの確認

真空捕集びんの洗浄完了後、器壁への残留成分や作業環境からのコンタミネーション(汚染)がないかを確認するため、必ずブランク測定を実施します。洗浄・排気を完了した真空捕集びんに、不純物を含まない高純度ゼロガスを導入し、静置にガスを採取してガスクロマトグラフにて分析を行います。

3-2-4. 液体試薬の注入

【液体試料から調製する場合の手順】

液体試薬注入のイメージ画像

1. 大気圧化と試料の注入
 あらかじめ真空捕集びん内に希釈ガスを導入して大気圧に戻したあと、
 シリコンゴムセプタム越しにマイクロシリンジを用いて、正確に計量し
 た液体試料をびん内に注入します。

2. 加熱による完全気化
 真空捕集びん用マントルヒーター等を用いて 60℃ 以上に加熱し、注入
 した液体試料を完全に気化させます。

3. 撹拌・混合
 びんをよく振り混ぜるか、あらかじめ内部に入れておいた撹拌用テフロ
 ンボール等を転がして十分に混合し、目的の標準ガスを調製します。

【補足技術資料:液体試料はなぜ「大気圧」に戻して注入するのか?】

本手順で「真空捕集びん内を大気圧に戻してから液体試料を注入する」アプローチを採用している理由は、シリンジのニードル内部のデッドボリュームによる過大誤差を防ぐためです。

減圧状態での注入イメージ図

減圧状態での注入リスク
真空状態で液体を導入すると気化効率は向上しますが、びん内の負圧によってシリンジのニードル内部に残留した計量外の液体試料まで引き抜かれて気化してしまいます。その結果、実際の注入量が設定量よりも著しく多くなる「プラス誤差」が発生します。

具体例(4 µL 注入時の影響)
標準的なシリンジ(例:Hamilton 701N)を用いて 4 µL を注入する場合、ニードル部には約 0.645 µL のデッドボリュームが存在します。真空下でこの残留液まで引き込まれた場合、約 16% の過大誤差が生じ、検量線の直線性や再現性に悪影響を及ぼします。

ハミルトン 7000シリーズゼロデッドボリュームシリンジを使用するイメージ図

結論と対策
大気圧下で注入を行うことで、この計量値との乖離を最小限に抑えることができます。

・基本手法:
本手順通り、真空捕集びん内をあらかじめ大気圧に戻してから液体試料を注入してください。

・真空下で注入したい場合:
プランジャーが針の先端まで到達する「ゼロデッドボリュームシリンジ(例:ハミルトン 7000シリーズ)」を必ずご使用ください。

【追記】試料気化によるびん内圧上昇の影響について

トルエン等の有機溶媒が気化する際の体積変化を考慮すべきとのご意見もあるかと思います。 しかし、例えばトルエン 4 µL が室温で全量気化した場合のガス体積は約 1 mL です。容量 1,000 mL の真空捕集びんに対して圧力増加率は約 0.1% に過ぎず、一般的なシリンジの注入誤差に比べて極めて小さいため、分析精度上無視できる範囲(誤差範囲内)として取り扱います。

3-2-5. 原ガス(気体試料)の注入

気体試料の場合、シリンジのニードル内部のデッドボリュームによる影響は微少なため、通常は大きな問題になりません。
しかし、大気圧状態の捕集びんへ多量の気体を注入すると、びん内部の圧力が上昇してしまいます。内圧が上がると、正確な希釈倍率の算出が困難になるほか、シリンジ押し込み時の抵抗による注入誤差が無視できなくなります。
そのため、気体試料の調製においては、あらかじめ捕集びん内を真空状態にしてから試料を導入する手法を推奨します。ただし、無視できる内圧上昇にとどまる範囲(例えば全容量に対して注入量が1%未満)など、誤差として処理できる範囲であれば、希釈ガスで大気圧に戻してから原ガスを注入しても問題ありません。

【原ガス(気体試料)から調製する場合の手順】

1. 原ガスの注入(真空状態下)
 真空状態(1.33 kPa 以下)に保たれた真空捕集びんのシリコンゴムセプ
 タム越しに、ガタイトシリンジを用いて、正確に計量した原ガスをびん
 内に注入します。

2. 希釈ガスの供給と大気圧化
 希釈ガスを供給し、真空捕集びん内が大気圧になるまで希釈・充填しま
 す。この流入プロセス自体が強い攪拌効果を生みます。

3. 拡散・混合
 気体同士は自然拡散しますが、びんを軽く振り混ぜるか静置して内部を
 十分に均一化させ、目的の標準ガスを調製します。

【補足技術資料:プッシュ缶を原ガスとする場合のガスの取り出し方法】

ガス分析において、プッシュ缶(小容量スプレー缶タイプの標準ガス)を原ガスとして希釈・調製する方法は非常に有効です。専用オプションの「シリンジ採取コネクター」を使用することで、外気の混入を防ぎながら少量のガスを正確に採取できます。

1. プッシュ缶のノズル取付部にシリンジ採取コネクターを取り付けます。
2. セプタムを押さえているナットを軽く緩め、ノズルを少し押してコネクター内部をプッシュ缶のガスで置換
 (パージ)したあと、ナットを締め直します。
3. セプタムにシリンジのニードル(針)を刺します。
4. ノズル部を押し込むとコネクター内の圧力が上がり、シリンジのプランジャーが押し出されてガスが自動的に
  充填されます。

3-2-6. 液体試薬から作る標準ガスの濃度計算式

液体試薬(トルエン、アセトンなど)をマイクロシリンジで注入・完全気化させる場合、理想ガスの状態方程式(25 ℃、1気圧で1 mol = 24.45 L)を用いて濃度を算出します。

①濃度計算の基本式

液体試薬の注入量 𝑉𝑙𝑖𝑞 (𝜇L) から、気化後のガス濃度 𝐶 (ppm) を求める式は以下の通りです。

②計算例(トルエンの場合)

条件  : トルエン(分子量 𝑀=92.14 g/mol、密度 𝜌=0.867 g/cm3)
容器  : 1.0 L の真空捕集びん
注入量 : 1.0 𝜇L

計算式

結論:1.0 Lの容器にトルエンを1.0 μL注入して完全気化させると、約230 ppmの標準ガスが完成します。

③目的の濃度から注入量を求める「逆算式」

逆算式

【例】 1.0Lの真空捕集びんに 500 ppmのトルエンガスを作りたい場合:

計算式

マイクロシリンジで2.17μLを採取・注入すれば、目的の500 ppm標準ガスが得られます。

3-2-7. 原ガスから作る標準ガスの濃度計算式

原ガス(プッシュ缶入り標準ガス:純度99.5%)をガスタイトシリンジで 1 mL 注入する場合の濃度を算出します。

①濃度計算の基本式

原ガスの注入量 Vgas[mL] からのガス濃度 C [ppm] を求める式は以下の通りです。

計算式

②計算例(1 mL 注入した場合)

条件:Vgas= 1 mL、 𝑉𝑐𝑜𝑛𝑡𝑎𝑖𝑛𝑒𝑟 = 1,000 mL、P = 99.5%

計算式

したがって、1 L の真空捕集びんに純度 99.5% の原ガスを 1 mL 注入した場合、生成される標準ガスの濃度は 995 ppm となります。

3-3. サンプリングバッグを用いた標準ガスの調製手順

作業環境測定や各種簡易分析において、樹脂製サンプリングバッグ(テドラーバッグ等)とシリンジを用いた、最も手軽で迅速な静的調製の手順です。

3-3-1. サンプリングバッグの選択

標準ガスの調製を正確に行うため、まずは目的に適したサンプリングバッグの選定を行います。「容量」「材質」「形状」の3要素について、以下の基準を参考に選択してください。

サンプリングバッグの画像

1.容量
バッグの容量は1 L以上を推奨します。小容量のバッグを使用すると、体積に対する内壁表面積の割合(比表面積)が大きくなり、壁面へのガス吸着による濃度低下リスクが高くなります。
吸着の心配がある場合は容量が10Lなど、少し大きめのバッグを選択してください。

スマートバッグの画像

2.材質
測定対象成分の性質に合わせて、吸着や透過がない適切な材質を選択します。

 無機ガス:
 ガスの透過がないアルミニウムバッグなどを推奨します。
 低級炭化水素・有機溶剤:
 低ブランク性、ガスバリア性、および保存性に優れた「SMARTBAG
  PA」がお薦めです。

各サンプリングバッグのブランクおよび保存性は以下テクニカルノートのリンクをご参照ください。

バルブ付きスリーブとM6コネクターの画像

3.形状(接続部仕様)
操作性と気密性を両立するため、以下のパーツを備えた形状を推奨します。

 バルブ付きスリーブ:
 希釈ガス(窒素やゼロエアなど)を大量かつスムーズに充填・排気する
  のに便利です。

 シリコンセプタム内蔵M6コネクター:
 ガスタイトシリンジを用いた気体・液体サンプルの微量注入や、外気の
  コンタミを防ぎながらのサンプリングに必須となります。

サンプリングバッグの種類などは以下のカタログのリンクをご参照ください。

3-3-2. サンプリングバッグの事前処理(洗浄・ブランク除去)

使用前のサンプリングバッグは、目的に応じて以下のような洗浄・ブランク除去処理を行います。

・簡易洗浄

 新品または洗浄済みのサンプリングバッグの場合、サンプリングバッグのスリーブにテフロンチューブなどを
 取り付け、窒素ガスを充填した後、ポンプで脱気を行い、この操作を3回繰り返します。

ガス充填のイメージ画像

ユニチューブでの取付例

最も手軽な接続方法は、ユニチューブ(外径9mm×内径5mm×長さ1m、Cat.No.3007-23505)を使う方法です。ユニチューブはシリコンチューブよりややハリと硬さがありますが、適度な弾力があるため、ガラス器具のホースジョイントや真空ポンプのニップル口に押し込みやすく、手軽に着脱が行えます。手で曲げても途中で潰れたり折れ曲がったりしにくく、真空引きの際にも引き潰されにくいチューブです。

ユニチューブでの取付イメージ図

PTFEチューブでの取付例

サンプリングバッグとPTFEチューブの接続には、PTFEジョイントが便利です。テーパー収縮シール方式を採用しており、特殊な工具を使わずにチューブを差し込んでナットを締め付けるだけで、高いシール性を確保できます。また、ミリサイズとそれに近いインチサイズの兼用が可能です。

PTFEチューブの接続イメージ図

金属製継手での取付例

PTFEなどの樹脂チューブをフェラル式の継手に接続する場合、金属フェラルのままでは樹脂が変形して抜けや漏れが発生するおそれがあります。これを防ぐため、フェラルをPTFE製に交換します。手締め後、1/4〜1/2回転ほど締め付けると、フェラルが変形してシールします。
また、金属製フェラルと異なりチューブに食い込まないため、何度も取り外し、再接続が可能です。

金属製継手での取付イメージ図

・加熱洗浄

サンプリングバッグのブランクが気になる場合は、洗浄(加熱パージ)を行います。
下記のデータは、テドラーバッグの洗浄前後における比較データです。

テドラーバッグの洗浄前後における比較データ

【加熱洗浄の手順例】

1. 残留ガスの脱気
 真空ポンプを接続してバッグ内の残留ガスを追い出します。

2. 高純度ガスの充填
 高純度窒素ガスなどを容量の 70%程度 まで充填します。

3. 恒温槽での加熱
 ガスを充填したバッグを恒温槽に入れ、バッグの最高使用温度を考慮しながら、50~80℃で1時間程度加熱し  
 ます。

4. 加熱状態での即時脱気
 バッグを恒温槽から取り出したら、温かい状態のまますぐに ポンプで内部のガスを全量吸引・排出します。

5. ガス置換サイクルの反復
 2.~4.の工程を3回程度繰り返します。

※温度や時間、置換回数などは一例です。

サンプリングバッグ加熱イメージ図

3-3-3. 洗浄後のブランクの確認

サンプリングバッグの洗浄後にブランク測定を実施します。洗浄・排気を完了したサンプリングバッグに、不純物を含まない高純度ゼロガスをバッグ容量に対して50%導入し、静置後にガスを採取してガスクロマトグラフにて分析を行います。

3-3-4. 希釈ガスへの置換

標準ガスの濃度精度を担保するためには、少量導入する原料ガスの計量精度と同等以上に、希釈ガスを正確な体積でサンプリングバッグへ充填することが極めて重要です。
バッグ自体は容積が可変するため、単に「バッグが満たされるまで入れる」ような目分量による充填は大幅な濃度誤差の原因となります。必ず以下のいずれかの高精度な定量・計量手法を用いて希釈ガスを導入してください。

推奨される希釈ガスの計量手法

ガスタイトシリンジ

ガスタイトシリンジの画像

高気密なフッ素樹脂(PTFE)チップ付きプランジャーとガラス外筒で構成された精密注射器です。デッドボリュームがほぼゼロで内部の置換や洗浄が容易なため、少量の希釈ガスを精度よくバッグへ注入できます。1 L未満の小容量バッグを作成する際や、100 mL〜1000 mL程度の希釈ガスを正確に段階注入(手動充填)する用途に適しています。

【希釈ガスへの置換手順例】

注入・採取口アダプター、M6コネクター付きサンプリングバッグの画像

1. 残留ガスの脱気
 真空ポンプを接続し、サンプリングバッグ内の残留ガスを十分に脱気
 します。

2. シリンジ内の共洗い
 シリンジ内部の残留空気を取り除くため、希釈ガスを吸い込み、押し
 出す操作を数回繰り返します。ガス配管からの希釈ガスの採取には
 「注入・採取口アダプター」の使用が便利です。

3. 希釈ガスの導入
 希釈ガス源からガスを採取・計量後、サンプリングバッグへ注入しま
 す。必要に応じてこの操作を複数回繰り返し、目的量まで導入します。
 ガス導入には、シリコンパッキン付きM6コネクターを備えたサンプ
 リングバッグの使用を推奨します。

【注意】
大容量シリンジを使用する場合は、流路抵抗を抑えてスムーズに採取(サンプリング)を行うため、内径の太い針(22ゲージ以下=数字が小さくより太い針)および横穴針の使用を推奨します。

乾式ガスメーター

乾式ガスメーターの画像

乾式ガスメーター
(Cat.No.3015-78401)

ガスの通過圧力で内部の計量膜(ダイヤフラム)が動き、その容積を機械的にカウントする積算体積計です。水や油などの封液を使用しないためガスへの水分・油分コンタミがなく、ガス種に依存せずその場の温度・圧力下での実体積を測定できます。大容量のガスを通すだけで「今何 L 流れたか」を直感的に確認できるため、数 L 〜 数十 L の大容量希釈ガスを手動で正確に充填・積算する用途に適しています。

メソッドのイメージ図

サーマルマスフローコントローラ(MFC)

マスフローコントローラーカスタムユニット、定量ガス供給装置の画像

熱式センサーでガスの「質量流量」を検知し、内部の電磁バルブで設定した流量へ自動コントロールする精密制御機器です。環境温度や圧力の変化による誤差を受けにくく、指定した一定流量で安定してガスを流し続けることができます。ただし、測定時の温度と校正温度が異なる場合は体積誤差が生じるため補正が必要です。




サーマルマスフローセンサーを搭載し、一定量の希釈ガス(高純度空気や窒素など)をサンプリングバッグ内に正確に計量・供給できる「定量ガス供給装置」なども販売されています。

【補足技術資料:サーマルマスフローコントローラーで精度を保つためのポイントとは?】

サーマルマスフローコントローラ(MFC)は、気体の「質量流量」を直接計測・制御できる非常に便利な機器ですが、現場の運用において「思っていた濃度とズレる」「なぜか値が合わない」というトラブルに遭遇したことはありませんか?
今回は、サーマルマスフローを扱う上で特に注意したい2つの落とし穴と、精度を保つためのポイントを解説します。

・落とし穴1:その「1 L/min」は何度基準?「校正温度(基準状態)」の罠

温度のイメージ図

サーマルマスフローの表示単位によく使われる「sccm」や「SLM」。この「s(standard)」は、0 ℃・1 atmで校正されたことを表します。

しかし、サーマルマスフローでは「CCM」や「LM」という表記もよく見かけます。 こちらは「室温・1 atm」で校正したことを表す単位なのですが、この「室温」がメーカーによって「20 ℃」であったり「25 ℃」であったりするため注意が必要です。

ガスは温度が高いほど膨張する性質があります。 例えば、同じ
「1 L/min」と表示されていても、0 ℃基準と 20 ℃基準では約 7% も気体分子数(物質量)が異なります。MFCを導入・設定する際は、装置が「どの基準温度で校正されているか」を必ず確認し、標準ガス調製の計算式側の基準と一致させることが不可欠です。

・落とし穴2:気体の体積は温度で変わる!シャルルの法則による体積補正

計算式のイメージ図

サーマルマスフロー自体は熱伝導を利用して「質量流量」を測っているため、環境温度が多少変化しても質量流量の出力値そのものは補正されます。 しかし、最終的にサンプリングバッグなどで「体積(L)」としてガスを捕集・計算する場合は注意が必要です。 気体の体積は絶対温度に比例します(シャルルの法則)。

もし分析室の室温が 20 ℃ の状態で、0 ℃ 基準のMFCを使って「1.00 L」のガスを吐出・捕集した場合、バッグの中で膨張した実際の体積は約 1.07 L(約 7% 増)になります。 「マスフローの数値(質量換算体積)」と「実際にバッグ内で占める体積(実体積)」を混同すると、希釈倍率に大きな誤差が生まれてしまいます。

3-3-5. 液体試薬(または原ガス)の注入

サンプリングバッグのイメージ図

1. 試料の注入
  M6コネクター、またはスリーブに取り付けたゴム栓を通し、マイクロ
  シリンジ(原ガスの場合はガスタイトシリンジ)を用いて、液体試薬
 (または原ガス)を規定量正確にバッグ内へ注入します。

2. 加熱による完全気化
  液体試薬を注入した場合は、バッグの外側から手で軽く温めたり、
  ドライヤー等で優しく加温したりして液体を完全に気化させます。

3. 撹拌・混合
  その後、バッグを手で軽く優しく揉むか、上下に数回振って内部のガス
  を十分に均一拡散させ、目的濃度の標準ガスを作成します。

【参考(完全気化)】

EPA Method 18などでは液体試料の完全気化のため、以下のようなフローを採用しています。

注入ポート(セプタム部)から液体を注入し、ウォーターバス等で加熱保持されたインピンジャー内で完全に気化させながら、希釈ガス流に乗せて全量をサンプリングバッグ内へ導入・混合させます。

Method 18のイメージ図

【注意事項(調製後すぐの分析が鉄則)】

樹脂膜(テドラーやPVDF等)は微量なガスの透過や壁面への吸着が避けられません。特にppm〜ppbレベルの低濃度ガスや極性化合物は経時変化が早いため、調製後はすぐに校正・分析へ使用してください。あるいは、保存中の濃度変化を実験で評価し、有効期限を設定して不確かさに算入した上で使用してください。

3-3-6. 液体試薬から作る標準ガスの濃度計算式

液体試薬(トルエン、アセトンなど)をマイクロシリンジで注入・完全気化させる場合、理想ガスの状態方程式(25℃、1気圧で1 mol = 24.45 L)を用いて濃度を算出します。

濃度計算の基本式

液体試薬の注入量 𝑉𝑙𝑖𝑞(𝜇L)から、気化後のガス濃度𝐶(ppm) を求める式は以下の通りです。

濃度計算の基本式

3-3-7. 原ガスから作る標準ガスの濃度計算式

原ガス(メタンなど)をガスタイトシリンジでサンプリングバッグに注入して標準ガスを作成します。

①濃度計算の基本式

原ガスの注入量 Vgas(mL)から、ガス濃度 𝐶 (ppm) を求める式は以下の通りです。

計算式

②計算例(純ガスから 1000 ppmを調製する場合)

計算式(純ガスから 1000ppmを調製する場合)

この場合、バッグに窒素を 10 L充填した後、ガスタイトシリンジで原ガスを 10.01mL注入することで、精度良く1,000 ppmの標準ガスが作成できます。