技術情報

4章 動的調製法の操作手順

4-1. 流量比混合法による標準ガスの調製手順

JIS K 0055(ガス分析装置の校正方法通則)等に規定されている、サーマルマスフローコントローラ(MFC)を用いて原ガスと希釈ガスの流量比を制御し、目的濃度の標準ガスを連続発生させる方法です。

流量比混合法による標準ガスの調製手順

1. 目標流量および濃度の計算

目的の濃度Cに応じた各MFCの設定流量を決定する。

濃度の計算

2. MFCのガス種(Kファクター)校正確認
使用するガス種とMFCの校正ガス種が一致しているか確認する。
異なるガスを流す場合は、実測による流量校正を行うか、メーカー指定のコンバージョンファクター
(Kファクター)を正確に適用する。

3. 装置の立ち上げとパージ
(1)配管内の空気・水分の追い出しのため希釈ガスラインを開放し、システム全系統に希釈ガスを流す。
(2)原ガスラインを開放し、設定流量 Qgas、Qdilで流し始める。
(3)初期流出ガスは排気ラインへ流し、デッドボリュームの置換と配管内壁への吸着平衡に達するまで十分な
  フラッシング時間をとる。

4. 分析機器(GC等)への導入
濃度の安定を確認した後、生成された希釈標準ガスを分析機器の試料導入部へ移送します。この際、装置内部への背圧変化を防ぐため、背圧弁でライン圧力を一定に保つか、余剰ガスを系外へ逃がす大気開放ラインを設けて常圧で導入します。

ガスの種類や流量範囲・精度などによって仕様が異なるため特注製品となりますが、以下のようなものがあります。


【補足技術資料】MFCの精度表記における「F.S.保証」と「S.P.保証」の違い

MFCは「設定値(Set Point)に対する精度」と「フルスケール(F.S.)に対する精度」の製品が存在します。特に制御下限(F.S.の10%以下など)付近で使用すると流速の誤差が急増するため、高い希釈比率(例えば1000倍以上)を1段のMFCでやろうとすると大きな濃度誤差を生みます。

Ⅰ)精度表記の違い(F.S. vs S.P.)

・フルスケール(F.S.)精度:
 最大定格流量を基準とした精度。低流量域になるほど実効誤差(% of Reading)が急増します。
・セットポイント(S.P.)精度:
 設定流量に対する精度。最新デジタルMFCでは、F.S.の30〜100%範囲で一定の誤差割合
 (例:±1.0% S.P.)を保証します。

Ⅱ)精度差の比較例(1000 mL/min MFCで 300 mL/min 出力時)

・従来型(±1.0% F.S.)      :誤差は常に ±10 mL/min ➔ 実効誤差 ±3.3%
・最新デジタル(±1.0% S.P.) :誤差は ±3 mL/min ➔ 実効誤差 ±1.0%

Ⅲ)S.P.保証(30~100% F.S.)のメリット

・制御レンジの拡大:
 1台で広範囲の流量を高精度制御でき、MFCの並列設置や切替ラインが不要に。
・低濃度域の精度向上:
 流量比混合法での低流量設定時も誤差が増大せず、検量線の直線性(𝑅2)が大幅に改善。
・配管構成の簡素化:
 高倍率希釈時の複雑な多段希釈ラインを削減可能。

SEC-N100 シリーズ画像

SEC-N100 シリーズ

堀場エステック製のSEC-N100シリーズはS.P.保証に加え、「マルチガス・マルチレンジ機能」を搭載しています。専用ソフトで設定を変更するだけで、1台のMFCで異なるガス種(N2、Ar、He、CH4など)や異なるフルスケール流量に対応可能です。

4-2. パーミエーションチューブ法を用いた標準ガスの調製手順

パーミエーション法(透過管法)は、パーミエーションチューブと専用のガス発生装置(パーミエーター)を用いて標準ガスを連続発生させる調製方法です。ガスを連続的に供給する動的調製法であるため、塩素、硫化水素、アンモニアといった容器壁面に吸着・反応しやすい化合物の標準ガス調製に適しており、JIS K 0055(ガス分析装置の校正方法通則)等にも記載されています。

パーミエーター画像
フローイメージ図

パーミエーションチューブとは

パーミエーションチューブのイメージ図

パーミエーションチューブは、一定品質のフッ素樹脂管等に高純度の物質を封入したもので、一定温度に保持すると、成分が一定の速度(透過速度)で管壁を透過・拡散する性質を持っています。したがって、パーミエーションチューブを一定温度に保ちつつ、希釈ガスを一定流量で送通すれば、連続して一定濃度の校正用ガスが得られます。

1. 希釈ガスの確保
 高純度窒素または高純度空気を用意し、パーミエーターの希釈ガス入口に供給します。

2. 恒温槽の安定化
 透過セルを収める恒温槽の電源を入れ、目標温度を設定します。同時に希釈ガスを流します。
 通気開始時は少流量(0.2 L/min 等)の設定で問題ありません。

3. 透過セルへのチューブ設置
 希釈ガスを流して30分以上経過したのち、透過セルにパーミエーションチューブを収納します。
 ガステック社のP-tubeの場合、24時間経過すると規定の透過速度に達して安定します。

4. 希釈ガス流量の調整
 希望する標準ガス濃度に合わせて希釈ガスの流量を調整します。
 流量設定変更後、約5分でガス濃度が安定し、標準ガスが得られます。

5. 分析装置(GC等)への導入
 発生した標準ガスをガスクロマトグラフなどの分析装置へ導入します。

6. 標準ガスの濃度計算式

標準ガスの濃度計算式

ガス重量を容積変換するための係数:Kの計算式

Kの計算式

ガステック社のP-tubeには以下のようなラベルが貼られています。

ガステック社のP-tubeに貼っているラベル

パーミエーターおよびパーミエーションチューブ(P-tube)については下記リンクをご参照ください。