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2章 各標準ガス調製法の特徴

各標準ガス調製法の特徴

標準ガスを調製するアプローチは、大きく分けて「静的調製法(バッチ式)」と「動的調製法(連続発生式)」の2つがあります。目的の濃度領域、成分の物性(気体か蒸気か、吸着性の有無)、分析頻度、そして予算に応じて最適な方法を選択します。

2-1. 容器内でガスを混ぜ合わせる「静的調製法」

一定容積の密閉容器の中で、高濃度のガスや液体試薬と希釈ガスを導入し、容器内で均一に混合・希釈して標準ガスをつくる方法です。現場でよく用いられる代表的な3つの手法を紹介します。

①キャニスター法(内面不活性処理済ステンレス製耐圧容器)

キャニスターの画像

キャニスター

役割:主にppb〜pptレベルの超低濃度標準ガスを正確に調製し、希釈状態を維持したまま長期間(最大30日間)保存するための調製法です。

特徴:内面を不活性化処理した耐圧容器を使用します。高真空に減圧した状態から試薬や原ガス(希釈用の高濃度標準ガス)を注入し、希釈ガスで加圧希釈します。このキャニスターを用いた静的加圧希釈は、米国EPA(Method TO-15A)や環境省の測定マニュアルでも正式に規定されている信頼性の高い希釈法です。ただし、専用の装置が必要となるため初期導入コストがかかります。

②真空捕集びん法(ガラス製真空びん)

真空捕集びんの画像

真空捕集びん

役割:ppm〜%レベルの中〜高濃度帯における迅速・簡便な標準ガス調製法です。

特徴:内部を事前に真空状態にしたガラス製容器(採気びん等)を使用します。真空捕集びんを希釈ガスで大気圧に戻した後、マイクロシリンジで液体試薬や原ガスを注入して希釈します。透明なため内部での液体試薬の気化状況を目視確認できる利点があり、JIS K 0305(排気中のトリクロロエチレン等分析方法)や環境省の「有害大気汚染物質測定マニュアル」においても、校正用標準ガスの調製法として記載されています。 一方で、ガラス製のため破損リスクがある点や、加圧調製には適さない点に注意が必要です。

③サンプリングバッグ法(樹脂製バッグ)

サンプリングバッグの画像

サンプリングバッグ

役割:作業環境測定における標準ガスの調製や、液体試料や原ガスからの標準ガスの手軽な調製法です。

特徴:フッ素樹脂などで作られた袋を使用します。希釈ガスを充填したバッグにシリンジ等で目的成分を微量注入するだけで手軽に調製できます。取り扱いが容易で安価ですが、樹脂膜を通じたガスの透過や膜素材への吸着による濃度変化が起きやすいため、長期間の保存には適さず調製後すぐの分析が原則となります。

2-2. 装置を使って高精度に連続発生させる「動的調製法」

動的調製法とは、目的成分と希釈ガスを連続的に供給・混合し、一定濃度の標準ガスをリアルタイムで連続生成する方法です。容器壁面への吸着や分解を起こしやすい成分、あるいはppbレベルの超低濃度ガスの調製に適しています。

① 流量比混合法 (マスフローコントローラー等による混合)

マスフローコントローラーの画像

マスフローコントローラー

役割:機器分析(GC等)における多点検量線の作成や、プロセス分析計の連続校正に使用されます。

特徴:マスフローコントローラー(MFC)等を用いて、高濃度の原ガスと希釈ガス(ゼロガス)の流量を精密に制御・混合することで目的濃度に希釈します。流量比を変えるだけで任意の濃度を連続的に素早く調製できるため、多点検量線の作成を効率化できます。JIS K 0055(ガス分析装置の校正方法)において標準的なガス希釈・調製法として規定されています。

②パーミエーションチューブ法(透過管法)

パーミエーターの画像

パーミエーター

役割:ppb〜ppmレベルの超低濃度ガスの発生や、悪臭物質・環境汚染物質(硫黄化合物、窒素酸化物等)の標準ガス調製に使用されます。

特徴:液化した目的成分を封入したフッ素樹脂製チューブ(パーミエーションチューブ)を精密に温度制御し、一定速度で透過してくる目的成分を希釈ガスで連続的に押し流して微量希釈ガスを生成します。JIS K 0055等で規定されており、高圧ボンベでの保存が困難な吸着性・反応性の強い成分(硫化水素、二酸化硫黄、アンモニアなど)や超微量濃度の標準ガスを安定して発生させることができます。

2-3. 標準ガス調製手法の比較一覧表

 

調製手法

濃度範囲

精度・

不確かさ

メリット

デメリット・注意点

キャニスター法

ppm〜ppb

高

・吸着・透過が極めて
  少ない

・長期保存が可能

・専用の加圧・洗浄装置が
  必要

・初期導入コストが高い

真空捕集びん法

%〜ppm

中

・吸着・透過が少ない

・液体試薬の気化状態を目視確認できる

・加圧希釈ができない

・ガラス破損のリスクが
  ある

・導入時の圧力計管理が
  必要

サンプリング

バッグ法

%〜ppm

中〜低

・非常に安価

・取り扱いが容易

・迅速に調製可能

・素材由来の影響が大きい

(アウトガス・透過・
  吸着)

・長期間の保存は不可

流量比混合法

%〜ppb

高

・流量比の変更のみで
連続調製可能

・多点検量線の作成
  に最適

・希釈用の高精度原ガスが
  必要

・ガス消費量が大きい

(原ガスおよび希釈ガス)

パーミエーションチューブ法

ppm〜ppb

高

・ppbレベルの超低濃度
  に対応

・安定生成まで事前の加温時間が必要

・チューブの透過率管理(天秤校正)が必要