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吸着型充填剤の選び方 -無機ガスと低級炭化水素分析の基礎ガイド-

1. ガス分析向けのカラムとは

1-1. 液相コーティング型キャピラリーカラムではなぜ分析が難しいのか?

一般的なキャピラリーカラムで無機ガスが正しく分離できない理由は、大きく分けて2つあります。

① 保持力が弱い

通常の液相キャピラリーカラムは「成分の液相への溶解度の差(=分配)」を利用して分離します。
しかし、O2、N2、COなどの沸点はマイナス100 ℃以下と非常に低く、室温付近では液相にほとんど
溶解しません。そのため、カラム内を通過するだけで保持が効かず、分離せずに一括して溶出してしまいます。

② サンプル負荷量が小さい

沸点が低い成分を分配液相で保持させるには、カラムをマイナス数十 ℃まで冷却するか、液相膜厚を
極端に厚くする必要があります。しかし、それでも高濃度の無機ガスを打ち込むと、「サンプル過負荷」を
起こし、ピーク形状が著しく悪化してしまいます。

以上のことを踏まえ、保持力を向上させるためにカラム長さを50 m、膜厚を5 μmとし、負荷を軽減させるためにスプリット注入したとしても、以下の分析例が限界となります。

低沸点無機ガスの分析では、液相への「分配」を利用した充填剤では十分な保持が得られないため、より保持力の強い「物理吸着」や「分子ふるい作用」を利用した固体吸着剤を選択する必要があります。物理吸着は主に固体の表面積に由来する「ファンデルワールス力」に依存する現象で、ゼオライト(モレキュラーシーブ)、活性炭、ポーラスポリマー(多孔質高分子)などが代表例です。
以下に、代表的な分離タイプ別の充填剤とその特徴をまとめましたので参考にしてください。

分離タイプ 主な構造・材料 分離原理 主な用途
 気液分配型  担体+液体固定相  気液間の分配平衡 有機化合物
 気固分配型
(吸着型)
 固体吸着剤
(活性炭など)
 固体表面への吸着平衡 無機ガス
永久ガス
 気液固分配型  多孔性高分子
(ポーラスポリマー)
 吸着+分配
(多孔体内部での複合相互作用)
無機ガス~有機ガス
VOCs

1-2.ガス分析においてパックドカラムが選ばれる理由

パックドカラム(充填カラム)からキャピラリーカラムへの移行は、液相コーティング型のキャピラリーカラムに限った話ではありません。無機ガスや低級炭化水素の分析においても、吸着剤を内壁に塗布したPLOT(Porous Layer Open Tubular)カラムが広く使われるようになりました。

しかし、ガス分析の現場では、今なお「パックドカラム」が主流の座を譲っていません。
「なぜ最新のキャピラリー(PLOT)ではなく、あえてパックドカラムを選ぶのか?」
そこには、分析の現場で求められる3つの決定的な理由があります。

①圧倒的な「サンプル負荷量の大きさ」

パックドカラムと PLOT カラムの最大の構造的違いは、カラム内部に存在する充填剤の「量」です。
PLOT カラムは吸着剤が薄く塗布されているだけのため、1 mL などの大容量のガスを導入すると、すぐにサンプル過負荷を起こします。そのため、注入量自体を減らすか、スプリット注入を行う必要があります。しかし、注入量を少なくすると、検出感度の低下や外気コンタミネーションによる再現性の悪化といったデメリットが生じてしまいます。

②過酷な環境下でも安定した分析が可能な圧倒的な頑健性と信頼性

プロセスガスクロマトグラフを用いた無機ガスの分析において、求められるものは分離能の追求以上に「24時間連続でノイズやトラブルなく動き続けること」です。堅牢な金属管内に充填剤を充填したパックドカラムを採用することで、プラント特有の機械的振動や激しい温度変化、バルブ切替時の急激な圧力ショックに対しても優れた物理的耐久性を発揮します。

③PLOTカラムの性能を生かせない検出器のデッドボリューム問題

PLOTカラムは非常に高い分離能力を持っていますが、「検出器に到達した瞬間、急に広い空間に出ることで成分が拡散してしまう」という課題があります。
PLOTカラムの中では非常にシャープに分離されていた成分バンドも、一般的なGCの検出器(TCDなど)のセル室に入った途端、急に空間が広がるためガスが拡がってしまいます。結果として、検出器側でピークが広がってしまい、せっかくのPLOTカラムの高理論段数を十分に活かしきれないという現象が起こります。

※この課題を克服するため、例えばマイクロGC(Agilent 990 GCなど)では、検出器セルボリュームを200 nLという極小サイズまで小さくして拡散を防ぐ特殊な設計が施されています。

Agilent 990 GCの詳細については下記リンクをご参照ください。

1-3. ガス分析で使用される充填剤の種類

一般的な有機化合物で使用されるのは液相コーティング型充填剤ですが、ガス分析においては主に吸着型、
ポーラスポリマー型充填剤が使用されます。

 充填剤の種類  保持  分析対象成分  特徴・注意点
 吸着型充填剤 強 主に無機ガスの分析
H2、O2、N2、CH4、CO等
分子サイズや極性によって強く吸着し、
カラムから溶出しなくなる場合がある
 ポーラスポリマー型充填剤 中 低級炭化水素や
低分子有機化合物等
・水などの極性化合物もカラムから溶出する
・ポリマーに極性を持たせることが可能
・無機ガスの分離には不適

1-4. 吸着型充填剤の特徴

吸着型充填剤は多孔質構造を持ち、非常に広い比表面積を有する無機系の充填剤です。他の充填剤と異なり、以下の特長を持ちます。

① 極めて高い比表面積と永久ガスの強力な保持・分離能

非常に大きな比表面積と強い物理吸着力を持つため、保持が難しく溶出しやすいO2、N2、CH4、COなどの永久ガスや無機ガスをしっかりと保持・分離します。

② 基材の特性(細孔構造・表面状態)による独自の分離パターン

・モレキュラーシーブ
幾何学的な結晶細孔による「分子ふるい効果」が大きく作用し、分子サイズがわずかに異なる永久ガス(O2、N2など)を分離します。

・活性炭
強力な疎水性表面と非常に大きい比表面積を持ち、低級炭化水素などに対して非常に強い保持力を発揮します。

・シリカゲル
親水性の無機表面と広い比表面積を持ち、不飽和炭化水素の不飽和結合(π電子)との間に副次的な極性相互作用が働くため、疎水性の活性炭とは異なる分離挙動を示します。

充填剤の種類  主な用途 
 Molecular sieve 5A H2、O2、N2、CH4、CO、Kr、Xeなどの分離
CO2は強く吸着し、溶出が困難
 Molecular Sieve 13X Molecular Sieve 5Aと同様だが、Molecular Sieve 5Aよりも溶出時間が早く、
COの微量分析に適している
 Active Carbon(活性炭) CH4、CO、CO2、C1~C2炭化水素など
O2、N2の分離不可
 Silicagel(シリカゲル) CH4、CO2、C1~C4炭化水素など
O2、N2の分離不可
活性炭よりも全体的に保持が弱く、特に炭化水素の保持が弱い

1-5. ポーラスポリマー型充填剤の特徴

ポーラスポリマー型充填剤は多孔質構造を持ち、広い表面積を有する充填剤です。表面積そのものは活性炭やシリカゲルなどの無機吸着剤には及びませんが、他の吸着型充填剤と異なり、以下の特長を持ちます。

① 高い疎水性と良好な極性化合物の溶出性

水などの極性化合物が強固に吸着されることなく、シャープなピークとして溶出します。
(一般的な無機吸着型充填剤では、極性化合物が強く吸着して溶出しにくい)

② 豊富な極性バリエーションによる分離パターンの最適化

ポリマー基材自体に極性を持たせることが可能なため、充填剤のタイプを選択することで、
目的に応じた分離パターンへ調整できます。

③ 優れた化学的安定性と腐食性ガスへの高い適用性

ポリマー骨格の優れた化学的安定性により、無機吸着剤では反応や充填剤の劣化を引き起こしやすい半導体特殊ガスや、ハロゲン系・酸性などの腐食性ガスの分析にも適用可能です。

充填剤シリーズ 主な材質・構造特徴 ラインアップ
PorapakTM  スチレン/ジビニルベンゼン共重合体が主体の歴史ある多孔性ポリマー。タイプ(Q, N, T等)により極性が異なる。  P、Q、R、S、N、T
(シラン処理品:P-S、Q-S)
HayeSep  高純度化および低ブリード化が図られた多孔性ポリマー。PorapakTMと同等または類似の極性・分離特性を持つタイプ(Q, N, T等)や独自型番を展開。 D (DB、Dip)、Q、P、S、R、C、A、B、N、T)
Tenax  2,6-ジフェニル-p-フェニレンオキサイド。非常に高い耐熱性と疎水性を持つ。加熱脱着チューブや高沸点化合物の分析に適用。 TA、GR
Chromosorb  スチレン系ポリマーの「Centuryシリーズ」。タイプごとに架橋度や極性が指定されている。 101、102、103、105、106、107、108
(現在供給が不安定なため、詳細はお問い合わせください。)
Gaskuropack  国産のスチレン/ジビニルベンゼン系ポーラスポリマー。
表面処理の異なる3種類をラインアップ
 54、55、56