技術情報

吸着型充填剤の選び方 -無機ガスと低級炭化水素分析の基礎ガイド-

2. モレキュラーシーブでの分析

2-1. モレキュラーシーブでの分析

Molecular Sieve(モレキュラーシーブ)は、日本語で「分子ふるい」を意味します。非常に均一な細孔を持つ多孔質の合成ゼオライトの一種です。細孔径よりも大きい分子は内部に入ることができず、保持されずに素早く溶出します。この分子サイズによるふるい分け効果が「分子ふるい」と呼ばれる由来です。
ガスクロマトグラフィーでは、主に Molecular Sieve 5A(MS-5A) や Molecular Sieve 13X(MS-13X) が使用されます。

2-2. H2、O2、N2、CH4、CO分析におけるMolecular Sieve 5A、13Xの比較

モレキュラーシーブは常温でO2とN2をベースライン分離できる唯一の充填剤です。
MS-5Aの方が保持が強く、とくにCOの溶出に時間がかかりますが、カラム温度を高めに設定することで、
分離パターンをMS-13Xに近づけることが可能です。

2-3. H2、O2、N2、CH4、CO分析におけるカラム内径、充填量の比較

当社で扱っているパックドカラムには内径2.17 mmと3 mmの仕様があります。内径が大きくなるほど線速度が低下し分離挙動が変化しますが、こちらもカラム温度の調整によって、異なる内径間で同等の分離性能を実現することが可能です。

各メーカーのGCに対応した充填カラムは下記リンクをご参照ください。

2-4. 無機ガス(O2、N2、CH4、CO)の高感度分析例

TCD(熱伝導度検出器)で分析する場合、キャリアガスと対象成分の熱伝導度の差が大きいほど感度が高くなるため、熱伝導率が非常に高いヘリウムが多く使用されます。
ただし、水素はヘリウムと熱伝導度が近いため、ヘリウムキャリアでは感度が著しく低下し、ピークの反転やピーク割れが起こるため正確な定量が困難になります。そのため、水素を分析対象に含める場合は、キャリアガスにアルゴンを用います。
なお、アルゴンキャリアを使用した場合、O2、N2、CH4、COなどの感度はヘリウムキャリア使用時に比べて1/10以下に低下するため注意が必要です。

ヘリウムキャリアでの分析例

アルゴンキャリアでの分析例

上記分析例の詳細に関しては下記テクニカルノートをご参照ください。

2-5. Molecular Sieve による希ガス分析例

Molecular Sieveでは希ガスの分析も可能です。下記にMS-5AとMS-13Xでの分析例を示します。

キャリアガスをArにすると、He、H2の測定も可能です。He→Ne→H2の順で溶出しますが、HeとH2の分離は3m以上のカラム長さが必要です。HeとNeの分離には9m以上のカラム長さが必要ですので、PLOTカラムでの分析をご検討ください。

2-6. Molecular Sieve 5A によるO2とArの分離例

Molecular Sieve 5Aカラムを冷却することにより、常温では分離が困難なO2とArの分離が可能になります。これは、カラム温度を下げるほど成分の保持が強くなり、相互分離能が向上する性質を応用した分析手法です。
下記のデータは、分析カラムを0 ℃に冷却して採取したものです。試料注入量を0.05 mLと極小に抑えることで、4 mのMS-5AカラムでもO2とArを分離できています。ただし、安定した分離度を確保するためには、6 m以上の長尺カラムを使用するか、カラムを−20 ℃程度まで冷却することを推奨します。
この分析法の課題は、低温化により後半溶出成分の保持力も強まり、1回あたりの分析時間が著しく長くなる点です。この分析条件においてもN2の溶出までに約20分、COの溶出までに約80分を要しています。

カラム温度 0 ℃での分離例

カラム温度 -22 ℃での分離例 (低温循環水槽を使用)

2-7. モレキュラーシーブの取り扱いの注意点

モレキュラーシーブは強力な乾燥剤(脱水剤)としても機能するため、空気中の湿気や試料中の微量水分を容易に吸湿します。水の分子サイズ(約2.7 Å)は細孔径より十分に小さいため、細孔内部へ容易に進入します。
さらに、モレキュラーシーブは結晶格子内の金属カチオンに起因する強力な吸着力を有するため、極性を持つ H2O、NH3、H2S、SO2などのガスを非常に強力に吸着します。これらの成分が吸着して細孔内部の有効吸着サイトが塞がれると、各ガス成分の保持力が全体的に弱くなるため注意が必要です。

水分や吸着した微量不純物は、定期的なコンディショニングによって脱離させ、カラム性能を初期状態近くまで回復させることが可能です。しかし、強吸着性物質が長期間にわたり蓄積した場合は、コンディショニングを行っても完全に回復しないことがあるため、その場合はカラムを新品に交換します。