技術情報

吸着型充填剤の選び方 -無機ガスと低級炭化水素分析の基礎ガイド-

5. PorapakTMでの分析

5-1. PorapakTMとは

PorapakTMは、スチレンやジビニルベンゼンなどを主成分とするポーラスポリマー(多孔質高分子)で、特有の細孔構造を有しています。低級炭化水素やCO2、アルコール、アルデヒドなどの極性化合物の分離に優れ、シリカゲルやモレキュラーシーブとは異なり「水(H2O)をピークとして溶出できる」点が最大の特長です。極性や比表面積の異なる多様なタイプ(P、Q、S、R、N、T など)が展開されており、分析目的に応じた柔軟な充填剤選定が可能です。

※PorapakTM はWaters Corporationの登録商標です。

タイプ  表面積(m2/g)  かさ比重(g/cm3)   Max.Temp.  Polymer Type  用途
 P 100~200 0.27  250 Styrene-Divinylbenzene 最も極性が小さいアルコール、グリコール、カルボニル化合物
 Q  500~600 0.34  250 Ethylvinylbenzene-
Divinylbenzene
最も広く使用される
炭化水素、水中の有機物、N 化合物、S 化合物
 R  450~600 0.30  250 Vinylpyrollidone 極性は中程度
エステル、アミノ、ニトリル系化合物
 S  300~450 0.35  250 Vinylpyridine アルコール、カルボニル、
ハロゲン有機化合物
 N  225~350 0.38   190 DVB-EVB-
Ethyleneglycoldimethacrylate
炭化水素、アンモニア
 T  250~350 0.43  190 Ethyleneglycol dimethacrylate 極性が最も高く、H2Oは
n- ブタンの後に溶出
アミン類

上記6タイプ以外にも、P-SやQ-Sなど「-S」表記のタイプがあります。これらはポリマー表面にシラン処理を施したグレードです。通常品(PやQなど)と比較してカラム内での吸着損失を低減できるため、極性化合物のピークテーリング抑制や、微量分析における定量性・回収率の向上が期待できます。

充填剤タイプの選択方法

最適な充填剤選定のガイドラインとして、各種化合物におけるPorapakTM充填剤の分離挙動および保持特性の目安をまとめた「保持時間表」を公表しています。詳細は下記リンクをご参照ください。

注1)記載されている数値は特定測定条件における代表値(参考値)であり、ご使用のGC装置やキャリアガス流量の微差により実際の保持時間は変動します。

注2)ポーラスポリマービーズは、原料中に含まれるモノマーや重合触媒などが残っている可能性があり、これらの残留物のため、ロット間のばらつきなど安定性に問題があります。そのため充填カラムの場合、残った充填剤を添付しています。

5-2. PorapakTMによる分析例

PorapakTMシリーズの中で最も汎用性が高い「PorapakTM Q」は、比表面積が大きく疎水性に優れた無極性多孔性ポリマー充填剤です。吸着型充填剤のシリカゲルよりも保持は弱くなりますが、最高使用温度は250℃と耐熱性に優れており、カラム温度を昇温させることでC6程度までの炭化水素を分析可能です。

以下はPorapakTM Qとシリカゲル(Unibeads 1S)でCO、CH4、CO2を測定したデータです。

CO、CH4、CO2を同時に高感度で分析したい場合、メタナイザーを使ってCO、CO2をメタン化してFID検出器で検出する手法が有効です。

PorapakTM Tは、PorapakTMシリーズの中で最も高い極性を持つ充填剤です。AirやCO2の分離に加え、H2O、HCHO、CH3OHといった高極性成分に対してもテーリングを抑えた良好なピーク形状と分離が得られます。メタノール酸化反応などの反応ガスやプロセスガス分析において有効です。

ホルムアルデヒドの分析

PorapakTM Qを用いたCF4、CO2、SF6、およびSOF2の分析例です。ガス絶縁開閉装置や変圧器など、電力機器で使用されるSF6絶縁ガスの劣化・アーク放電に伴い、分解生成物(SOF2, CF4, CO2等)が発生します。PorapakTM Qを使用することで、マトリックスである大量のSF6と微量分解成分を良好に分離することができます。

CF4、SF6、SOF2の分析

PorapakTM QSを用いたPH3およびAsH3の分析例です。これらは半導体製造のイオン注入工程などで用いられる高毒性・高反応性のドーパントガスです。表面をシラン処理して不活性度を高めたPorapakTM QSを使用することで、活性なPH3やAsH3の吸着やピークテーリングを抑え、それを堅牢なステンレス製カラムに充填することで安定かつ安全に分析することが可能になります。

ポーラスポリマー充填剤は高い化学的不活性を有するため、半導体用特殊ガスをはじめ、ハロゲン系化合物や酸性ガスといった腐食性・反応性成分の分析にも幅広く対応可能です。


下記のデータは、PorapakTMの各種(Q、N、T)における炭化水素(C2~C4)の分離挙動を比較したものです。充填剤の極性は Q < N < T の順に高くなります。固定相に極性基が含まれる場合、不飽和炭化水素の二重結合(π電子)との間に極性相互作用が働くことで、保持がより強化されます。
この挙動は特にC3H8とC3H6の分離状態に顕著に表れており、無極性のPorapakTM Qでは C3H6→C3H8の順で溶出するのに対し、高極性なPorapakTM Tでは溶出順序が完全に逆転(C3H8→C3H6)していることが分かります。

充填剤による成分の保持には、極性だけでなく比表面積やポリマー骨格(基材構造)も大きく影響します。以下のデータはガス分析ではなく溶剤分析の例ですが、各充填剤の保持力および選択性の違いを把握するうえで参考となります。充填剤選定の目安としてご活用ください。
(PorapakTM QSはPorapakTM Qにシラン処理を行ったもので、保持特性はPorapakTM Qとほぼ同じです。)