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HPLCのまめ知識

緩衝液の使い方

表1 HPLCで使用する主な緩衝剤のpKa( 25 ℃)

表1に逆相系HPLCでよく使用される主な緩衝剤のpKaを示しました。
pKaとは酸解離定数のことで、使用する緩衝剤のpKaと同じpHの時に緩衝作用は最大となります。
酢酸の場合、次式のような平衡が成り立ち緩衝作用が働きます。

CH3COOH   CH3COO- + H+  ・・・(Ⅰ)

酢酸緩衝液の場合、一般的に酢酸と酢酸ナトリウムを混合して調製します。
LC/MS(/MS)を使用する場合のように揮発性緩衝液が望ましい場合には不揮発性の塩である酢酸ナトリウムではなく、酢酸アンモニウムなどを使用して調製します。
(Ⅰ)式のように緩衝作用が働くと、その系の中に多少の酸性化合物や
塩基性化合物が混入してもpHの変動が起こりにくくなります。
また、この緩衝作用は、図1のように使用する緩衝剤のpKa±1の範囲において効果的です。例えば、酢酸のpKaは4.56であるため、pH 3.5 ~ 5.5の範囲で緩衝作用を働かせたいときに選択します。

図1 酢酸の各pHにおけるモル分率( 25 ℃)

実際に調製する時には数 mM ~数十 mMの緩衝塩(ナトリウム塩やアンモニウム塩)の水溶液に酸やアルカリを添加することで目的のpHとします。

また、目的化合物のpKaも重要です。溶離液のpHが目的化合物のpKa付近であると、保持時間の再現性の悪化につながります。
これは、溶離液の調製誤差によるわずかなpHの変動により、目的化合物の解離状態が変化し、その結果として保持のされ方に違いが生じることが原因です。
このような場合、目的化合物を完全に解離または、非解離の状態にさせることで保持時間が安定しやすくなります。

具体的には、目的化合物のpKaから±2以上離れたpHの溶離液を使用するのが良いとされています。
たとえば、塩基性化合物であるイミダゾールのpKaは7.01であるため、溶離液のpHが5以下である場合には、そのほとんどがイミダゾリウムイオンとして存在し、pH 9 以上ではほぼ全ての分子がイミダゾールとして存在します(図2)。

図2 イミダゾールの各pHにおけるモル分率( 25 ℃)

一般的に、逆相系HPLCでは、目的化合物がイオン化した状態になると保持が弱くなります。
逆に目的化合物がイオン化しないpHの溶離液を使用すれば、相対的に保持が強くなります。
たとえばイミダゾールをInertSustain C18のような耐アルカリのカラムを使ってpH 9以上の溶離液で分析すると、イミダゾールがイオンとなるpH 5以下の溶離液を使って分析した時よりもはるかに強く保持されます。

イオン対試薬は、溶離液中でイオンになっている成分に保持をもたせるために使用します。
そのため、イオン対試薬を使用する場合には目的成分がイオンとなるようなpHに調整する必要があります。
イミダゾールをイオン対試薬を使って分析する場合であれば、イミダゾリウムイオンとして存在するpH 5以下とするのが一般的です。(イオン対試薬については、こちらを参照してください。)