技術情報

シリンジフィルターの選び方

2.フィルター材質の選び方

2-1. フィルター材質選定の重要性

シリンジフィルターは前処理の基本ツールですが、材質選びを誤ると、サンプルの吸着やフィルター由来の不純物混入、ろ過不良などが発生し、分析結果に大きな影響を与えます。ゴーストピーク、回収率低下、バックグラウンドノイズ上昇、カラム詰まりなどのトラブルは、ほとんどが材質の不適合が原因です。
サンプルの種類(水系・有機系・タンパク質含有など)や分析手法に合わせて適切なメンブレンを選ぶことが、正確なデータ取得と装置保護のために不可欠です。

2-2. 薬品適合性

シリンジフィルターは、サンプルの種類や分析アプリケーションに応じて、使用する溶媒や試薬との薬品適合性を十分に考慮する必要があります。下記に、サンプルの種類および用途に対応した推奨フィルター材質をまとめていますので、選定時の参考にしてください。

2-3. 主な材質と特長

 材質  特長 推奨用途 
PTFE(疎水性)
・親水性PTFE
・最も耐薬品性が高く、酸・アルカリにも安定
・低抽出で LC/MS に適合
・疎水性PTFEは水を通さない
(事前湿潤が必要)
・親水性PTFEは水系でもそのまま使用可能
・有機溶媒系試料のHPLC前処理
・高pH・低pHなど過酷条件の試料
・LC/MS(有機溶媒主体)
・未知サンプルの初回処理
 PVDF(疎水性)
・親水性PVDF
 ・低タンパク吸着でタンパク・ペプチドに最適
・親水性/疎水性の両方があり、適用範囲が広い
・低抽出で LC/MS に適合
・強極性で溶解力の強い溶媒では膨潤しやすい
・生体試料(血清、血漿など)
・ペプチド・タンパク質の前処理
・酵素・抗体溶液のろ過
・水系・混合溶媒のHPLC
 Nylon
(ナイロン)
・汎用性が高く、価格が安い
・水系・弱有機混合溶媒で安定
・高強度で扱いやすい
・たんぱく質の吸着が比較的強い
・一般的なHPLC用サンプル前処理
・混合溶媒のサンプル
・日常ルーチン分析
※ 生体・タンパク質試料には不向
 PES
(ポリエーテルスルホン)
・親水性で高流速 → 水系サンプルに強い
・低タンパク吸着(PVDFに次ぐ低さ)
・低抽出で LC/MS にも使用可
・水系バッファーで安定
・水系HPLCおよびLC/MS
・生体試料(中〜低タンパク)
・細胞培養液・培地
・水系添加剤・バッファーのろ過
 オレフィン系ポリマー
(親水処理)
・低抽出で LC/MS に適合
・無機イオンの溶出が極めて少ない
・水系サンプルに対して高い通液性
・耐アルカリ性が高い(pH10〜13でも安定)
・水系HPLCおよびLC/MS
・イオンクロ用試料の前処理
・一般的な水溶液、試薬のろ過
・水系添加剤・バッファーのろ過

2-4. フィルターの耐薬品性

シリンジフィルターは、膜材質によって溶媒や試薬に対する耐性が大きく異なります。適切な材質を選ばないと、フィルターの破損やサンプルの汚染につながり、分析結果に重大な影響を及ぼすことがあります。
以下に、誤った材質を選んだ際に起こりやすい代表的なトラブルをまとめます。

フィルターの溶解・膨潤
不適合な溶媒を使用するとフィルターが膨潤・溶解し、ろ過が遅くなるだけでなく、フィルター成分が
サンプルに混入する恐れがあります。

サンプル成分の吸着
材質によってはサンプル成分が膜に吸着し、濃度低下やピーク減少を招くことがあります。分析精度に影響するため注意が必要です。

溶出物や汚染の発生
適合しない材質を使うと膜やハウジングの溶出物が増え、バックグラウンド上昇やゴーストピークの原因になります。特に LC/MS では重要な問題です。

トラブルを無くすために、耐薬品性について以下のポイントを確認しましょう。

・使用する溶媒・試薬の種類(水系/有機/酸/アルカリ)
・サンプル成分の性質(タンパク質・疎水性化合物・イオン性化合物など)
・分析方法(HPLC、LC/MS、IC、GC前処理など)
・高濃度・混合溶媒の耐性

※単に “水系だから○○” ではなく、混合比・pH・温度も耐薬品性に影響します。

耐薬品性は、溶媒の種類や濃度、温度、膜メーカーごとの処方によって異なるため、一般論だけで判断するのは危険です。最適な材質を選ぶには、使用予定の溶媒・試薬がフィルター材質に適合するかどうかを、
メーカーが提供する 耐薬品性チャートで確認することが最も確実です。誤った選定を防ぐことが、ろ過の安定化と分析精度の向上につながります。

参考:GLクロマトディスクの耐薬品性

薬品名\材質・タイプ オレフィン系ポリマー
(タイプ:A,S&AI)
PTFE
(タイプ:N)
親水性PTFE 
(タイプ:P)
酸 氷酢酸 △ △  
酢酸90% △ △  
〃30% ○ ○  
〃10% ○ ○  
塩酸Conc. × × ×
〃6N × △ ○
硫酸Conc. × × ×
〃6N × △ ○
硝酸 Conc. × × ×
〃6N × △ ○
アルカリ アンモニア水 △ △  
〃3N ○ ○  
水酸化カリウム3N △ ○  
水酸化ナトリウム6N     ○
〃5N △ ○ ○
〃3N △ ○ ○
〃1N ○    
アルコール メタノール ○ ○ ○
エタノール ○ ○ ○
プロパノール ○ ○  
イソプロパノール ○ ○ ○
ブタノール ○ ○ ○
アミルアルコール ○ ○  
エチレングリコール ○ ○  
プロピレングリコール ○ ○  
グリセリン ○ ○  
エーテル エチルエーテル ○ ○ ○
イソプロピルエーテル ○ ○  
ジオキサン × ○ ○
テトラヒドロフラン × ○ ○
エステル 酢酸メチル × ○ ○
酢酸エチル × ○ ○
酢酸イソプロピル × ○  
酢酸ブチル × ○  
酢酸アミル × ○  
酢酸セロソルブ × ○  
ケトン アセトン × ○ ○
シクロヘキサノン × ○  
メチルエチルケトン × ○ ○
メチルイソブチルケトン × ○  
芳香族
炭化水素
ベンゼン × ○ ○
トルエン × ○ ○
キシレン × ○ ○
ハロゲン化
炭化水素
二塩化エチレン × ○  
塩化メチレン × ○ ○
クロロホルム × ○ ○
四塩化炭素 × ○  
パークロロエチレン × ○  
トリクロロエチレン × ○  
フレオンTF × ○ ○
フレオンTMC × ○  
オイル類 綿実油 ○ ○  
潤滑油 × ○  
落花生油 ○ ○  
ゴマ油 ○ ○  
その他 アセトニトリル × ○ ○ 
アニリン × ○  
ガソリン △ ○  
ケロシン △ ○  
ジメチルホルムアミド × ○ ○
ジメチルスルホキシド × ○ ○
テルペン油 △ ○  
ピリジン △ ○  
フェノール(液状) × ○  
ヘキサン △ ○ ○
ホルムアルデヒド 37% △ ○