技術情報

固相カラムの上手な使い方

Ⅰ章-8 固相抽出操作を行なう上での注意点

実際の試料に対して固相抽出操作を行う際には、試料の取り扱いや固相抽出操作そのものにおいて、いくつか注意が必要です。 以下に代表的な注意点についてまとめました。

pH依存性

水溶性試料中の目的物質を、SDB、C18 などの無極性固相に効率的に保持させるためには、目的物質を解離型から非解離型にする必要があります。 一般的に酸性化合物では、酸性にすることにより解離が抑えられます。 たとえば、ある目的物質の解離定数を仮にpKa=4.5とすると、そのpKaより2.0以下のpH、すなわちpH2.5以下にすることで非解離型となり、目的物質を効率的に保持できます。 塩基性化合物では、pKaより2.0単位以上高いpHに調整します。 仮にpKa=7.5の塩基性化合物を保持させるためには、pH9.5以上に調整して非解離型にすることで、無極性固相に保持されます。
また、イオン性化合物をイオン交換固相に適用する際は、無極性固相以上にpH 依存性を考慮する必要があります。イオン交換相互作用を活用するときのpH 依存性のポイントについて、弱陽イオン交換のCBA 固相(図10)と強陽イオン交換のSCX 固相(図11)を用いたときの例を示します。

対イオン/ 相対的吸着特性

イオン交換固相を用いるときに基準となるのが、次の(図12)に示す対イオン/ 相対的吸着特性の配列表です。イオン性の目的物質を保持するときの絶対条件は、目的物質がマトリックス中で帯電していることですが、選択した固相が目的物質より相対的吸着特性が高ければ、イオン交換相互作用は起きません。また、溶出の際に保持されている目的物質を非解離型にするか、より相対的吸着特性の高い対イオンを用いれば、溶出してきます(固相充填剤の対イオンはメーカーによって異なる場合がありますので、製品カタログなどで確認が必要です)。

マトリックス中の極性溶媒の影響

無極性固相を用いて目的物質を保持させる際には、試料マトリックス中にメタノール、アセトニトリル、またはアセトンなどの極性溶媒がどの程度混入しているかを十分に考慮する必要があります。 極性有機溶媒濃度が一定量あると、無極性固相を用いた逆相分配モードは著しく保持が阻害されるようになります。 その濃度は、目的物質の疎水性に依存します。 疎水性がきわめて強ければ20%程度含まれていても保持されますが、30%、40%と濃度が高くなるにつれて、カラムを素通りする(破過、またはブレークスルーと呼ぶ)現象を引き起こすため注意が必要です。 イオン交換固相を用いる場合は、目的物質が解離していればイオン交換相互作用は起きるので、極性溶媒が70%程度混在していても影響せず保持させることができます。
シリカゲル(SI)、NH2およびPSAなどの極性固相を用いるときは、n-ヘキサンなどの非極性溶媒に目的物質を溶かした後に負荷します。 目的物質によってはn-ヘキサンに溶解しないものもありますが、そのような場合は目的物質が溶ける溶媒、たとえば混和するジクロロメタンやアセトンなどを用いて一度溶解した後、n-ヘキサンで溶けた目的化合物が析出しない程度まで希釈して、極性をできるだけ抑えながら固相へ負荷するとよいとされています。

生体試料中薬物のタンパク結合の影響

多くの薬物が血漿タンパクと結合するため、血清、血漿、尿試料をそのまま緩衝液で希釈して固相に負荷しただけでは、まったく保持されず破過してしまうことがあります。 このような現象を回避するためには、あらかじめ目的薬物がどの程度血漿タンパクと結合するのかを調べ、必要に応じてタンパク結合の影響を除去(除タンパク処理)する必要があります。 以下に、タンパク結合の切断方法についていくつかの方法を紹介します。

血中薬物のタンパク結合解離方法

①マトリックスのpH を変える

pH を変えることにより、タンパク結合力を弱めて固相抽出を有利に行うための手法です。実際には、血清、血漿にリン酸、塩酸などを添加して、試料を酸性に調整した後、固相抽出処理を行います。

②タンパク結合を抑制する試薬を加える

薬物とのタンパク結合を抑制する試薬には、メタノールやギ酸を用います。LC-MS(/MS)分析が主流になっている現在では、揮発性の高いギ酸添加が好まれます。0.1 ~ 0.2 mL の血漿に対しメタノールやギ酸を20 μL 程度加えると効果的です。もし、試料の液性を酸性にすることで保持が弱くなり、水洗浄の段階で漏れ出るような場合は、試料の調整の際にアンモニア水約50 μL を加え、弱アルカリにして負荷する方法で改善できることがあります。

③タンパク質変性剤を添加する

試料にアセトニトリル、トリクロロ酢酸または過塩素酸を加えて、タンパク質変性を起こし、これを遠心分離、フィルター処理することで除タンパクを行う方法が用いられています。この方法には、目的物質がタンパク質変性沈殿物に取り込まれるリスクがあるため、導入には十分な確認作業が必要です。また、高濃度(4 ~ 8 mol/L)の尿素やグアニジン塩酸塩を用いて同様の効果を狙うことも可能です。
ただし、この方法は、イオン交換モードでの固相抽出には適用できません。

食肉、動物臓器、食品等におけるタンパク結合解離方法

①有機溶媒アセトニトリルによる除タンパク

牛乳などの脂肪分を含む乳製品は、アセトニトリルを約4倍量加えて除タンパクを行なった後、遠心分離し上清を固相抽出に用います。

②メタリン酸、トリクロロ酢酸を用いる方法

動物用医薬品分析では、除タンパク・抽出溶液としてメタリン酸が用いらることが多いです。 目的物質を選択的に抽出するためには、それらにメタノールまたはアセトニトリルを混ぜ合わせた混合液を利用します。 トリクロロ酢酸は、約2~4%の濃度になるように、リン酸緩衝液などにあらかじめ添加してなじませたものを使用します。

③限外ろ過法による除タンパク

①、②が利用できない場合は、限外ろ過膜を用い、分子量サイズによりタンパク質を除去する方法も利用できます。 試料によっては処理にかなりの時間を要するため、通常はあまり好まれません。